借家権付き空き家を相続した|立退きなしで買取に出せる条件と手順
TL;DR — 借家権付き空き家(賃借人在籍物件)の買取ポイント 相続によって賃貸人の地位は自動移転(民法605条の3)。入居者を退去させずに「オーナーチェンジ売却」として買取業者に出すことができる。立退きを求めるには借地借家法第28条の正当事由+実務上は立退き料が必要で、時間もコストもかかる。現状のまま買取に出すほうが、手続きがシンプルで損失も少ないケースが多い。
親が亡くなり、賃貸物件として貸し出していた建物を相続した——しかし自分では管理できないし、入居者がいるから売りにくいと思っていませんか。
結論からお伝えします。入居者がいる「借家権付き物件」は、立退きを求めなくても買取業者に売ることができます。むしろ「立退きを求めてから売る」より、現状のままオーナーチェンジで売却するほうがコストも時間も節約できるケースがほとんどです。
この記事では、借家権付き物件の相続後の取り扱い・立退きなしで買取に出せる条件と手順・価格への影響を、宅地建物取引業者の立場から解説します。
借家権とは何か、相続するとどうなるか
借家権(しゃっかけん)とは、建物を借りて使用する賃借人(入居者)の権利のことです。正式には建物賃借権と呼ばれ、借地借家法によって手厚く保護されています。
所有者(貸主)が亡くなって建物が相続された場合、入居者の借家権はどうなるのでしょうか。
賃貸人の地位は相続で自動移転する
民法605条の3は次のように定めています。
賃貸不動産が譲渡された場合において、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
「譲渡」には相続による承継も含まれます。つまり、被相続人(亡くなった方)が締結していた賃貸借契約は、相続が発生した瞬間に相続人へ自動的に引き継がれます。相続人が賃貸借契約を新たに締結し直す必要はなく、入居者に改めて了承を取る必要もありません。
入居者の借家権は新オーナーにも主張できる
借地借家法第31条は、建物の引渡しを受けた賃借人は登記がなくても新しい所有者に対して賃借権を主張できると定めています。入居者は相続を理由に退去を求められることはなく、従来と同じ条件で居住を続けることができます。
相続を理由に「出ていってほしい」と言っても、法律上は退去する義務がありません。これが「借家権の保護」です。
立退きなしで買取に出せる条件
入居者がいる状態のまま所有者だけが変わる売却方法を、不動産業界では「オーナーチェンジ」と呼びます。買取業者はオーナーチェンジでの仕入れに慣れており、以下の条件を満たせばスムーズに話が進みます。
条件1: 有効な賃貸借契約書が存在する
入居者との賃貸借契約書が存在し、現在も有効であることが大前提です。契約書が見当たらない場合でも、入居者に事実確認を取り、口頭・慣行による賃貸借であることを確認できれば対応できるケースがあります。買取業者に相談する際、まず契約書の有無を確認してください。
条件2: 普通借家か定期借家かを確認する
賃貸借契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。
| 項目 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 更新 | 合意更新・法定更新あり | 更新なし(期間満了で終了) |
| 解約制限 | 正当事由が必要 | 期間満了時に終了 |
| 買取価格への影響 | やや低くなりやすい | 期間短ければ高めに評価されやすい |
定期借家で残存期間が短い場合、将来的に自用地として活用できる見通しが立つため、買取業者の評価額が上がることがあります。
条件3: 賃料滞納がない(または状況を開示している)
賃料が正常に支払われていることが理想ですが、滞納がある場合でも買取は可能です。隠さずに事前開示することが重要で、滞納額・期間・入居者との交渉状況を買取業者に正確に伝えてください。隠蔽は契約後のトラブルにつながります。
条件4: 相続登記が完了している(または着手済み)
売買契約の締結・決済には、不動産の名義が相続人に変更されていることが必要です。2024年4月から相続登記が義務化(相続を知った日から3年以内)されているため、早めに手続きを進めてください。査定や相談は登記前でも受け付けています。
借家権付き物件の買取価格はどう決まるか
借家権付き物件の買取価格は、通常の空き家・更地と異なる方法で算定されます。主に使われるのは収益還元法です。
収益還元法の考え方
物件価格 ≒ 年間純収益(賃料 − 管理費・税金等) ÷ 期待利回り
例えば、月額賃料8万円の物件で年間純収益が70万円、買取業者が期待する利回りが10%の場合、700万円前後が目安の評価額になります。
通常の空き家・更地より価格が下がりやすい主な理由は、入居者がいる分、買主が自由に使えない制約があるからです。ただし、賃料水準が高く安定している物件では、収益不動産として高く評価されるケースもあります。一概に「安くなる」とは言えないため、必ず査定を受けて判断することをお勧めします。
立退きを求める場合の条件と費用(参考)
「やはり空にしてから売りたい」と考える方のために、立退きを求める場合の条件もまとめます。
正当事由(借地借家法第28条)が必要
賃貸人側から賃貸借契約を解約・更新拒絶するには、「正当事由」が必要です(借地借家法第28条)。正当事由として認められやすい事情の例:
- 建物が老朽化し、安全上の問題がある(倒壊・耐震基準未満等)
- 賃貸人(相続人)が自ら居住する必要がある
- 長期の賃料滞納など入居者側の契約違反がある
一方、「売却したいから」「更地にしたいから」だけでは正当事由として認められません。
立退き料の相場
正当事由がそれほど強くない場合、立退き料を支払うことで実質的な合意退去を促すことができます。立退き料の相場はケースによって幅がありますが、賃料の6〜12ヶ月分程度が一つの目安とされています。交渉次第では引越し費用・新居の礼金・仲介手数料相当の実費負担を求められることもあります。
立退きには交渉・待機期間を含めると半年〜1年以上かかることも珍しくありません。急いで売りたい場合は、立退きを求めずオーナーチェンジで買取に出すほうが現実的です。
相続から買取までの手順
借家権付き物件をオーナーチェンジで買取に出す場合の手順をまとめます。
Step 1: 相続登記(名義変更)
法務局に以下の書類を提出し、不動産の名義を相続人に変更します。
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の出生から死亡までの連続戸籍謄本
- 固定資産税評価証明書
司法書士に依頼する場合の報酬は5〜15万円程度が目安です。
Step 2: 賃貸借契約書の内容を確認する
被相続人が保管していた賃貸借契約書を探し、以下を確認します。
- 賃貸期間・更新日
- 月額賃料と支払い方法
- 普通借家か定期借家か
- 敷金・保証金の預かり状況
- 連帯保証人の有無
敷金・保証金は売却時に買主に引き継ぐか、精算するかを決める必要があります。
Step 3: 入居者に賃貸人変更を通知する
相続が発生し、賃貸人が変わったことを入居者に書面で通知します。通知に含める内容:
- 前の賃貸人(被相続人)が亡くなったこと
- 新しい賃貸人(相続人の氏名・連絡先)
- 賃料の振込先口座(変更がある場合)
この通知は法的義務ではありませんが、入居者との関係を良好に保つために重要です。
Step 4: 買取業者に査定を依頼する
借家権付き物件・オーナーチェンジ買取の実績がある業者に査定を依頼します。査定時に用意しておくと便利な書類:
- 賃貸借契約書のコピー
- 建物の登記事項証明書
- 固定資産税納税通知書
- 賃料入金履歴(通帳コピー等)
複数業者から見積もりを取ることで、適正価格の目安がわかります。
Step 5: 売買契約・決済
査定額と条件に合意したら売買契約を締結します。買取業者との直接取引のため、仲介手数料はかかりません。決済時に残代金を受け取り、同日に所有権移転登記を行います。
敷金・保証金の精算方法(買主に引き継ぐか、売主が返還するか)は事前に売買契約書に明記してください。
Step 6: 入居者への新オーナー通知
決済完了後、入居者に所有者(賃貸人)が変わったことを通知します。新しいオーナー(買主)の氏名・連絡先・賃料の振込先口座を伝えます。この通知は買主が行うケースもあります。引継ぎ方法を事前に買主と確認しておくとスムーズです。
→ 60秒で概算査定(無料・匿名OK) 物件種別・築年数・エリアを選ぶだけで市場価格と概算買取価格を即時表示。
よくある質問
入居者が退去してから売るのと、在籍中に売るのはどちらがお得ですか?
一概にどちらが得とは言えません。在籍中に売る場合(オーナーチェンジ)は、立退き料・交渉期間・その間の管理コストがかからず、すぐに現金化できます。退去後に売る場合は、仲介市場で買い手を探せるため、エンドユーザーに売れれば価格が上がる可能性があります。ただし立退きに要した時間・費用を差し引くと、在籍のままオーナーチェンジで売るほうが手残りが多くなるケースは少なくありません。
入居者が複数いる場合も同じ方法で売れますか?
はい。複数の部屋に入居者がいるアパートやマンションも、オーナーチェンジで買取に出すことができます。各部屋の賃貸借契約書・賃料水準・入居状況をまとめて買取業者に提供すれば、建物全体として査定を受けられます。
相続人が複数いる場合、全員の同意が必要ですか?
売却には相続人全員の合意が必要です。遺産分割協議によって、売却を担当する相続人を代表者として決め、他の相続人は売却代金から按分して受け取る方法が一般的です。相続人のうち一人でも反対する場合は、遺産分割調停を申し立てる必要があります。
空き家のミカタ(宅地建物取引業者・大阪府知事(1)第65646号)は、入居者がいる物件・オーナーチェンジ買取を専門に扱っています。立退き不要・現況のまま・最短1週間で現金化します。賃貸借契約書がない場合でも対応可能です。まずはお気軽にご相談ください。