相続アパートの維持費シミュレーション|固定資産税・修繕費・管理費の10年間コスト
「相続したアパートをとりあえず持っておこう」と考えていませんか。築古アパートの維持費は、想像以上にかかります。
この記事では、築30年・8室・大阪市内という具体的なモデルケースを使い、固定資産税・修繕費・管理費・空室損失を含めた維持費を10年分シミュレーションします。あわせて、売却した場合の手取り額と比較し、「持ち続けるか・手放すか」を判断するための材料をお伝えします。
モデルケースの設定
シミュレーションに使うモデルケースは以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪市内(住居系エリア) |
| 構造 | 木造2階建て |
| 築年数 | 30年(旧耐震ではないが、設備の老朽化が進行中) |
| 部屋数 | 8室(1K・各25㎡) |
| 家賃設定 | 月4.5万円/戸 |
| 現在の入居率 | 75%(6室入居・2室空室) |
| 土地面積 | 約150㎡ |
| 固定資産税評価額 | 土地2,000万円・建物400万円 |
このモデルケースは、当社がこれまで査定してきた大阪市内の相続アパートの中でも、よくあるパターンです。
年間維持費の内訳
まず、1年間にかかる維持費の内訳を整理します。
① 固定資産税・都市計画税
固定資産税と都市計画税は、不動産を所有している限り毎年かかる税金です。
| 項目 | 計算方法 | 年間金額 |
|---|---|---|
| 土地の固定資産税 | 2,000万円 × 1/6(住宅用地特例)× 1.4% | 約4.7万円 |
| 建物の固定資産税 | 400万円 × 1.4% | 約5.6万円 |
| 土地の都市計画税 | 2,000万円 × 1/3(住宅用地特例)× 0.3% | 約2.0万円 |
| 建物の都市計画税 | 400万円 × 0.3% | 約1.2万円 |
| 合計 | — | 約13.5万円 |
住宅用地の特例(小規模住宅用地は固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に軽減)が適用されている前提です。建物を解体して更地にすると、この特例が外れ、土地の固定資産税は最大6倍になります。「解体すれば楽になる」とは限らない理由がここにあります。
出典:地方税法第349条の3の2、第702条の3(住宅用地の課税標準の特例)
② 修繕費
築30年のアパートでは、大規模修繕と日常的な修繕の両方が必要になります。国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」によると、木造アパートの修繕費は築30年前後で急増する傾向があります。
| 修繕項目 | 想定時期 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 外壁塗装 | 築30〜35年で2回目 | 150〜250万円 |
| 屋根防水 | 築25〜30年で2回目 | 80〜150万円 |
| 給排水管の更新 | 築30年前後 | 150〜300万円 |
| 給湯器交換(8室分) | 10〜15年ごと | 80〜120万円 |
| エアコン交換(8室分) | 10〜15年ごと | 56〜80万円 |
| 退去時の原状回復 | 退去のたび | 1室あたり10〜20万円 |
10年間の修繕費合計は、少なく見積もっても500〜900万円が見込まれます。ここでは年間平均70万円で試算します。
出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」(令和3年3月改訂版)
③ 管理費(管理会社への委託費)
管理会社に管理を委託する場合の費用は以下のとおりです。
| 項目 | 計算方法 | 年間金額 |
|---|---|---|
| 管理委託費 | 月額家賃の5%(入居6室分) | 約16.2万円 |
| 入居者募集費(広告料) | 家賃1〜2ヶ月分(年1室退去と仮定) | 約4.5〜9万円 |
| 合計 | — | 約21〜25万円 |
遠方に住んでいる場合、管理会社への委託は必須です。自主管理を選ぶと管理費は抑えられますが、入居者対応・家賃督促・設備トラブル対応をすべて自分で行う必要があります。
④ 空室による家賃損失
空室は「目に見えにくいコスト」ですが、経営を大きく圧迫します。
| 入居率 | 年間家賃収入 | 空室損失額 |
|---|---|---|
| 100%(満室) | 432万円 | 0円 |
| 75%(6/8室) | 324万円 | 108万円 |
| 62.5%(5/8室) | 270万円 | 162万円 |
| 50%(4/8室) | 216万円 | 216万円 |
築古アパートの入居率は、年数が経つほど下がる傾向があります。大阪市の賃貸住宅の平均空室率は約18%(総務省「住宅・土地統計調査」2023年)ですが、築30年超の木造アパートでは空室率30〜40%になることも珍しくありません。
⑤ その他の費用
| 項目 | 年間金額 |
|---|---|
| 火災保険・地震保険 | 約8〜12万円 |
| 税理士・確定申告費用 | 約5〜10万円 |
| 共用部の電気・水道代 | 約3〜5万円 |
| 合計 | 約16〜27万円 |
10年間の累計コスト試算
上記をまとめ、10年間の累計維持費をシミュレーションします。
前提条件
- 入居率は初年度75%から、毎年1.5%ずつ低下と仮定(築古アパートの一般的な傾向)
- 修繕費は年間平均70万円(10年間で大規模修繕1回を含む)
- 家賃は5年目に5%値下げ(競争力維持のため)
シミュレーション結果
| 年数 | 入居率 | 家賃収入 | 維持費合計 | 年間収支 | 累計収支 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 75.0% | 324万円 | 191万円 | +133万円 | +133万円 |
| 2年目 | 73.5% | 317万円 | 191万円 | +126万円 | +259万円 |
| 3年目 | 72.0% | 311万円 | 191万円 | +120万円 | +379万円 |
| 4年目 | 70.5% | 304万円 | 191万円 | +113万円 | +492万円 |
| 5年目 | 69.0% | 283万円 | 191万円 | +92万円 | +584万円 |
| 6年目 | 67.5% | 277万円 | 241万円 | +36万円 | +620万円 |
| 7年目 | 66.0% | 270万円 | 191万円 | +79万円 | +699万円 |
| 8年目 | 64.5% | 264万円 | 191万円 | +73万円 | +772万円 |
| 9年目 | 63.0% | 258万円 | 191万円 | +67万円 | +839万円 |
| 10年目 | 61.5% | 252万円 | 241万円 | +11万円 | +850万円 |
※ 維持費の内訳(通常年):固定資産税13.5万円+修繕費70万円+管理費23万円+保険等20万円+空室損失分は家賃収入から控除済み=約191万円(6年目・10年目は大規模修繕で+50万円)
ここが重要:10年で手残りは850万円
一見すると10年間で850万円のプラスですが、ここから所得税・住民税が差し引かれます。不動産所得にかかる税率は、他の所得と合算した総合課税です。
| 課税所得に応じた税率 | 税額目安(年間手残り100万円の場合) |
|---|---|
| 所得税+住民税:約30%(課税所得330万円超の場合) | 約30万円/年 |
税引後の10年間の手残りは、約600万円前後になります。
さらに、このシミュレーションには以下のリスクが含まれていません。
- 突発的な大規模修繕(給排水管の破裂、雨漏り等):100〜300万円
- 入居者トラブル(家賃滞納、孤独死、騒音問題等):対応費用+空室期間の長期化
- 災害リスク(地震・台風による損壊):保険でカバーしきれない場合あり
- 金利上昇リスク:ローンが残っている場合、返済額が増加
売却した場合との比較
では、今すぐ売却した場合と、10年間保有して売却した場合を比較してみます。
今すぐ売却した場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 買取価格(想定) | 1,500〜1,800万円 |
| 譲渡所得税・住民税 | 約60〜100万円(取得費・保有期間による) |
| 仲介手数料 | なし(買取の場合) |
| 手取り額 | 約1,400〜1,700万円 |
買取価格は、土地値(路線価ベースで約1,200〜1,500万円)に建物の残存価値と収益性を加味した金額です。築30年の木造アパートは建物価値がほぼゼロに近いため、土地値が価格の大部分を占めます。
10年後に売却した場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 10年間の手残り(税引後) | 約600万円 |
| 10年後の買取価格(想定) | 800〜1,200万円 |
| 譲渡所得税・住民税 | 約30〜60万円 |
| 手取り額 | 約770〜1,140万円 |
| 10年間の収入+売却額の合計 | 約1,370〜1,740万円 |
比較まとめ
| シナリオ | 合計手取り額 |
|---|---|
| 今すぐ売却 | 約1,400〜1,700万円 |
| 10年保有後に売却 | 約1,370〜1,740万円 |
金額だけを見ると、大きな差はありません。しかし、10年間保有する場合には以下のコストが加わります。
- 時間と手間:管理会社とのやりとり、入居者対応、修繕の判断、確定申告
- 精神的な負担:空室が増えていく不安、突発的なトラブルへの対応
- 突発リスク:上記のシミュレーションに含まれていない大規模修繕や災害
- 機会損失:売却で得たお金を他の資産運用に回せた可能性
「持ち続けても大きく得をするわけではない」ということが、この試算から見えてきます。
どんな場合に早期売却を検討すべきか
以下に当てはまる方は、早めの売却を検討する価値があります。
- 築35年以上で大規模修繕が迫っている:修繕費を払う前に売却した方がトータルでプラスになるケースが多い
- 空室率が30%を超えている:今後さらに悪化する可能性が高い
- 遠方に住んでいて管理が難しい:管理の手間と交通費を考えると保有のメリットが薄い
- 相続人が複数いて意見がまとまらない:共有名義のまま放置すると、将来さらに問題が複雑になる
- 他に相続税の支払い原資がない:不動産を売却して現金化する必要がある
判断に迷う場合は、まず査定を取って「今いくらで売れるのか」を把握することが第一歩です。査定は無料で、売却の義務はありません。
まとめ
相続アパートの維持費は、固定資産税・修繕費・管理費・空室損失を合わせると年間190万円以上になることがあります。10年間の累計では、税引後の手残りは約600万円。一方、今すぐ売却すれば1,400〜1,700万円の手取りが見込めます。
重要なのは、「なんとなく持ち続ける」のではなく、数字を見て冷静に判断することです。
維持費のシミュレーションをしたうえで、「それでも持ち続ける価値がある」と判断できるなら保有を続ける選択もあります。しかし、「よくわからないからとりあえず持っておく」という判断は、毎年190万円以上のコストを払い続けることと同じです。
相続アパートの維持費・売却のご相談はこちら
空き家のミカタは、相続アパート・築古物件の買取に対応している宅建業者です。「持ち続けるべきか、売るべきか」の判断からご相談いただけます。
お客様の物件情報をもとに、維持費の概算と買取価格の両方をお伝えしますので、比較検討の材料としてご活用ください。査定は無料です。