事故物件の一棟アパート査定|空室連鎖と家賃下落の基準
結論:事故物件の一棟アパートの査定額は、「事案があった1部屋の値引き」では決まりません。決めているのは年間の家賃収入がいくら減るかと、それを割り戻す還元利回りです。1部屋の家賃を月2万円下げるだけで年24万円の減収となり、還元利回りを8%とすれば物件価格には約300万円の影響が出ます。原状回復費用の平均額が49万4,344円であることを考えると、清掃費よりも家賃と空室期間の設定のほうが、査定額を大きく動かします。
区分マンションや戸建ての事故物件は「相場の何割」という考え方で価格を見ます。ところが一棟アパートはまったく別の計算式で動きます。ここを取り違えたまま複数社の査定書を並べても、なぜ金額が違うのかがわかりません。
この記事では、一棟アパートの査定額がどう組み立てられるのか、空室連鎖はなぜ起きるのか、家賃をいくら下げると価格がどれだけ動くのかを、国土交通省のガイドライン原文と公表データをもとに整理します。
一棟アパートの価格は「割り算」で決まります
一棟アパートのような収益不動産は、収益還元法という考え方で評価されるのが一般的です。国土交通省が定める不動産鑑定評価基準にも位置づけられている手法で、そのうち直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで割り戻して価格を求めます。
式にすると、次のようになります。
物件価格 = 年間の純収益 ÷ 還元利回り
「純収益」は、年間の家賃収入から固定資産税・管理費・修繕費・保険料などの経費を引いた残りです。「還元利回り」は、その物件にどれくらいの利回りを期待するかという数字で、立地・築年数・構造・空室リスクによって変わります。
ここで大事なのは、割り算になっているという点です。分子(年間の純収益)が少し減るだけで、分母で割り戻したときには何倍にも増幅されて価格に効いてきます。事故物件の一棟アパートで起きるのは、まさにこの増幅です。
出典:国土交通省「法令・不動産鑑定評価基準等」(2026年8月18日確認)
家賃を月1万円下げると、価格はいくら下がるのか
事案があった住戸を、従前の家賃のままで再募集できることはあまりありません。実務では家賃を下げて募集し直すことになります。その下げ幅が、価格にどう跳ね返るかを表にしました。
| 事案住戸の家賃の下げ幅(月額) | 年間の減収 | 利回り7%換算の価格影響 | 利回り8%換算 | 利回り10%換算 |
|---|---|---|---|---|
| 1万円 | 12万円 | 約171万円の下落 | 150万円の下落 | 120万円の下落 |
| 2万円 | 24万円 | 約343万円の下落 | 300万円の下落 | 240万円の下落 |
| 3万円 | 36万円 | 約514万円の下落 | 450万円の下落 | 360万円の下落 |
※ 利回りは計算の考え方を示すための仮の数値です。実際の還元利回りは立地・築年数・構造によって変わります。
さらに、その部屋が空室のまま固定してしまった場合は、下げ幅ではなく家賃の全額が消えます。家賃5万5,000円の1戸が埋まらないままなら、年66万円の減収です。利回り8%で割り戻すと825万円、10%でも660万円の価格影響になります。
つまり一棟アパートの事故物件で本当に効いてくるのは、清掃費でも、心理的瑕疵という言葉でもありません。その部屋がいくらで、いつ埋まるのかです。
実務での見え方:ご相談をいただく時点で、事案があった部屋を空室のまま1年以上置かれているケースが少なくありません。「まだ気持ちの整理がつかないので」というお気持ちは当然のことです。ただ査定の数字としては、空室の固定は家賃を下げるより大きく効いてしまいます。埋めるか、下げて埋めるか、建物ごと手放すかを、金額を見たうえで選んでいただくのが結果的に損の少ない進め方になります。
他の部屋は、告知しなくてよいことになっています
一棟アパートのオーナー様から最も多くいただくご質問が「他の部屋の入居者にも言わなければいけないのか」です。国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)は、この点を明確にしています。
ガイドラインが「告げなくてもよい」としているのは、次の3つの場合です。
① 自然死または日常生活の中での不慮の死 老衰・持病による病死などの自然死は、賃貸・売買いずれの場合も原則として告げなくてよいとされています。自宅の階段からの転落、入浴中の溺死や転倒、食事中の誤嚥といった日常生活の中での不慮の事故死も同様です。ガイドラインは、自宅における死因のうち老衰や病死が9割を占めるという人口動態統計(令和元年)を根拠に挙げています。ただし、長期間人知れず放置されたこと等に伴い特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は、この限りではありません。
② 賃貸借取引で、発生または発覚から概ね3年が経過した場合 ①以外の死が発生した場合、または特殊清掃等が行われることとなった①の死が発覚した場合、賃貸借取引については概ね3年を経過した後は原則として借主に告げなくてよいとされています。ただし、事件性・周知性・社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではありません。
③ 隣接住戸、または日常生活で通常使用しない共用部分での事案 取引の対象ではない隣接住戸や、借主・買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した事案は、賃貸・売買いずれの場合も原則として告げなくてよいとされています。こちらも、事件性・周知性・社会に与えた影響等が特に高い事案は除かれます。
一棟アパートの他の住戸は、この③に当たります。ガイドラインが明文で挙げているのは「隣接住戸」ですが、隣接する部屋ですら原則不要とされている以上、離れた住戸も実務では同様に扱われています。
ただし、共用部分には注意が必要です。ガイドラインは、借主が日常生活において通常使用する必要があり、住み心地の良さに影響を与えると考えられる共用部分——共用の玄関・エレベーター・廊下・階段や、専用使用が可能なベランダなど——は取引対象の不動産と同様に扱うとしています。共用階段や廊下で発生した事案は、他の住戸の募集にも「概ね3年」のルールがかかってくることになります。
出典:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月・2026年8月18日確認)
それでも空室が連鎖するのは、告知ではなく「周知性」が原因です
告知しなくてよいはずなのに、事案の後から他の部屋の退去が続き、募集をかけても決まらない——実際に多いご相談です。
理由は単純で、告知義務の範囲と、入居希望者が決めるかどうかは別の問題だからです。空室が連鎖する引き金になるのは、法律上の告知ではなく次のような周知性です。
- 既存入居者が知っている:救急車や警察が来た、清掃業者が出入りした、においがあった。同じ建物に住んでいれば伝わります
- 近隣で話題になっている:ご近所づきあいのある地域ほど、内見に来た方が周辺で耳にする可能性が上がります
- 共用部に痕跡が残っている:郵便受けの表示、玄関前の私物、退去の張り紙など
- 管理会社が念のため説明している:後日のトラブルを避けるため、義務の範囲を超えて説明する運用をとる会社もあります
- インターネット上の書き込み:住所単位で検索される時代です
逆に言えば、周知されていない事案であれば、他の部屋の稼働はほとんど落ちないこともあります。「事故物件になったからアパート全体の価値が下がった」と一律に考える必要はありません。査定の場面で私たちが必ず確認させていただくのが、この周知の程度です。
売却には「概ね3年」がありません
もうひとつ、一棟アパートで見落とされやすい点があります。
ガイドラインが「概ね3年」という目安を示しているのは賃貸借取引についてです。売買取引には経過期間の定めが設けられていません。
そして一棟アパートを建物ごと売る場合、事案があった住戸は取引の対象そのものに含まれます。「隣接住戸だから原則不要」という③の例外は、建物全体を売るときには当てはまりません。
さらにガイドラインは、経過した期間や死因にかかわらず、買主から事案の有無について問われた場合には、調査で判明した点を告げる必要があるとしています。契約後・引渡しまでに知った場合にも告知義務があるとした裁判例(高松高判平成26年6月19日)があることにも触れています。
つまり、3年待っても売却時の告知は消えず、その間の空室と保有コストだけが積み上がるということです。「時間が解決してくれる」という前提で判断を先送りされている場合は、一度数字で確認されることをおすすめします。
実費はいくらかかるのか|公表データで見る原状回復と空室
日本少額短期保険協会が公表している第10回 孤独死現状レポート(2025年12月)は、保険金支払いデータをもとに実額を公表しています。一棟アパートのオーナー様が負担する費用の目安として、参考になる数字です。
| 項目 | 累積データの平均損害額 | 2024年度単年の平均損害額 |
|---|---|---|
| 原状回復費用 | 49万4,344円 | 61万507円 |
| 遺品整理(残置物処理)費用 | 29万4,131円 | 26万6,265円 |
| 家賃保証(平均支払い額) | 33万7,035円 | 38万9,706円 |
同レポートによれば、孤独死の発生から発見までの平均日数は19日です。また原状回復費用の最大損害額は756万4,673円で、事案の内容によって金額の幅が非常に大きいことがわかります。単年データで原状回復費用が上がっているのは、物価高騰による材料費・工費等の影響と分析されています。
注目していただきたいのが家賃保証の平均支払い額(33万7,035円)です。これは事案の後に家賃が入らなかった期間に対して支払われた保険金で、実質的に空室期間の長さを金額で示したものと読むことができます。家賃5万5,000円の部屋であれば、およそ6か月分に相当します。
そして前半でご覧いただいたとおり、その6か月の空室そのものよりも、その後に家賃をいくらで再設定するかのほうが、物件価格には桁違いに大きく効きます。原状回復に49万円かけるかどうかより、家賃を2万円下げるかどうかのほうが300万円動く、という関係です。
出典:日本少額短期保険協会「第10回 孤独死現状レポート」(2025年12月・2026年8月18日確認)
査定書はここを見てください|3つのチェックポイント
複数社から査定を取ると、金額が大きく違って戸惑われることがあります。多くの場合、違いは相場観ではなく前提条件の置き方から生まれています。次の3点を確認していただくと、比べられる形になります。
① 満室想定の家賃で計算していないか
一棟アパートの広告で使われる「利回り」の多くは満室想定利回りです。全戸が埋まっている前提の数字なので、事案があって空室になっている部屋も、従前の家賃で埋まっているものとして計算されていることがあります。実際に入ってくる家賃で計算した現況利回りがいくらなのかを、必ずあわせて確認してください。
② 事案があった部屋の再募集家賃を、いくらで見込んでいるか
査定額の差が最も出るのがここです。従前どおりの家賃で置いているのか、2割下げているのか、5割下げているのかで、前の表のとおり数百万円が動きます。「その部屋を何円で計算していますか」と聞いていただくのが、いちばん早い確認方法です。
③ 空室期間(ダウンタイム)を何か月分織り込んでいるか
事案の後は、募集を再開してから決まるまでの期間が通常より長くなります。この期間を0か月で計算した査定額は、実際の手残りと乖離します。何か月分を見込んでいるかを確認し、各社で揃えて比べてください。
なお、事故物件の下落率について「相場の何割」という公的な統計はありません。買取価格の一般的な目安については事故物件の買取価格はいくら?相場の下落率と査定額の内訳で整理していますので、あわせてご覧ください。一棟アパート全般の収益評価の仕組みは地方の相続アパートは売れない?都市部との査定差が生まれる仕組みと手放す5つの手順でも触れています。
査定の前に整理しておきたい5項目
査定の精度は、いただく情報の粒度でほぼ決まります。次の5つが揃っていれば、現地を見る前でもかなり近い数字をお出しできます。
- 事案があった住戸の号室と、発生前の家賃・共益費
- 特殊清掃・大規模リフォームの有無(実施していれば内容と金額)
- 全戸のレントロール(入居中/空室、現在の家賃、契約日、退去予定)
- 周知の程度(報道の有無、既存入居者への説明の有無、共用部での発生かどうか)
- 事案の発生時期または発覚時期と、死因(わかる範囲で。不明なら「不明」で構いません)
⑤について補足します。ガイドラインは、告げる内容は発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)・場所・死因・特殊清掃等が行われた旨で足りるとしており、亡くなった方やご遺族の名誉と生活の平穏に配慮する必要があることから、氏名・年齢・住所・家族構成や具体的な死の態様、発見状況までを告げる必要はないと明記しています。査定でお聞かせいただくのもこの範囲までです。ご家族の事情を細かくお話しいただく必要はありません。
大阪市24区で一棟アパートをお持ちの方へ
大阪市内の一棟アパートは、駅からの距離と単身向けかファミリー向けかで、空室の埋まりやすさが大きく変わります。同じ区内でも、駅徒歩10分を超えると再募集の期間が延びやすく、事案の後はその差がさらに開きます。
相続で一棟アパートを引き継がれた場合、ご自身は遠方にお住まいで、管理会社からの報告でしか状況がわからないというケースも多くあります。その状態で空室が2戸、3戸と増えていくと、判断材料がないまま保有コストだけが続いてしまいます。
私たちは大阪市24区を中心に、事案があったままの状態・特殊清掃前・入居者が残ったままでも、一棟のまま直接買い取っています。仲介ではないため、広告を出したり現地に看板を掲げたりすることはありません。既存入居者や近隣に知られずに進めることも可能です。
相続で引き継いだアパートの手放し方全般については相続アパートの買取|手放したい・管理できないアパートを最短2週間で現金化、入居者がいる場合の進め方は入居者がいるアパートの売却方法|立退き交渉とオーナーチェンジ買取を徹底比較をご覧ください。
よくあるご質問
Q. 事案があった部屋を、リフォームしてから査定に出したほうがよいですか
必ずしもそうとは限りません。買取の場合、原状回復や特殊清掃は買主である当社側で手配するため、売主様が先に費用を負担されても、その金額がそのまま買取価格に上乗せされるとは限らないためです。まず現況のままの査定額を確認し、費用をかけた場合の想定と手残りで比べてからご判断ください。
Q. 事案があったことを、査定の段階で伝えないとどうなりますか
売主様が事案を知りながら故意に告げなかった場合、後日、契約不適合責任や損害賠償を問われる可能性があります。ガイドラインでも、契約後・引渡しまでに知った場合にも告知義務があるとした裁判例が挙げられています。査定の段階で事実をそのままお伝えいただいたほうが、結果としてトラブルを避けられます。当社は事案があることを前提に評価しますので、伝えたことで断られることはありません。
Q. 何号室で起きたのか、家族も正確に把握していません
差し支えありません。ガイドラインでも、売主・貸主・管理業者に照会して不明と回答された場合や無回答の場合は、その旨を告げれば足りるとされています。管理会社に照会するところから当社でお手伝いできますので、わかる範囲でお知らせください。
Q. 入居者に知られずに売却できますか
できます。オーナーチェンジによる直接買取であれば、既存の賃貸借契約はそのまま引き継がれます。売買契約の成立後に賃貸人の地位が移転した旨を通知する形になるため、売却活動中に入居者へ知らせる必要はありません。広告も出しませんので、募集中の物件として市場に出ることもありません。
Q. 空室が半分以上あります。それでも査定してもらえますか
査定いたします。稼働率が低い一棟アパートは収益評価が下がりますが、土地としての評価もあわせて見ますので、金額が付かないということはあまりありません。空室が多い状態が長く続くほど数字は下がりますので、早めに現在の水準を把握しておかれることをおすすめします。
まとめ
- 一棟アパートの査定額は年間の純収益 ÷ 還元利回りで決まります。1部屋の家賃を月2万円下げると、利回り8%換算で約300万円の価格影響になります
- 他の住戸や日常生活で通常使用しない共用部分での事案は、ガイドライン上原則として告知不要です。それでも空室が連鎖するのは、告知義務ではなく周知性が原因です
- 売買には「概ね3年」のルールがありません。一棟売却では事案があった住戸が取引対象に含まれるため、隣接住戸の例外も当てはまりません
- 査定書は①満室想定か現況か ②事案住戸の再募集家賃 ③空室期間の見込みの3点を揃えて比べてください
- 原状回復費用の平均は49万4,344円ですが、家賃と空室期間の設定のほうが金額へのインパクトは桁違いに大きくなります
数字の構造がわかれば、直すか、下げて埋めるか、建物ごと手放すかを感情ではなく金額で選べます。まずは現在の水準をご確認ください。
無料査定・ご相談はこちらから
「まだ売ると決めていない」「今いくらなのか知りたいだけ」——その段階のご相談を歓迎しています。査定は無料で、売却を強制することはありません。
事故物件・訳あり物件を専門に扱っており、特殊清掃前・残置物そのまま・入居者が残ったまま・現況のままで査定にお応えできます。秘密厳守で対応し、遠方にお住まいの相続人の方からのご相談も承っています。レントロールがお手元にない場合も、そろえるところからご相談いただけます。