地方の相続アパートは売れない?都市部との査定差が生まれる仕組みと手放す5つの手順【2026年版】
地方に相続したアパートがある。管理会社からは「入居がつかない」と言われ、仲介に相談したら「買い手が見つかりにくい物件です」と返された。こういうご相談を毎月お受けしています。
不安なのは「これは売れない物件なのか」という点だと思います。結論からお伝えします。
結論
- 地方の相続アパートは「売れない」のではなく、「求められる利回りが高いぶん価格が低く出る」のが実態です。収益物件の価格は「年間の純収益 ÷ 買主が求める利回り」でおおむね決まります
- 同じ年間純収益270万円でも、利回り3.6%なら約7,500万円、5.0%なら約5,400万円、12%なら約2,250万円になります。査定差の正体はこの割り算です
- 相続税評価額と売却価格は計算方法が別です。地方の空室が多いアパートでは、相続税評価額のほうが高く出ることは珍しくありません
「売れない」の正体は、割り算の分母
戸建てと違い、アパートのような収益物件は収益還元法という方法で評価されます。考え方はとても単純です。
価格 = 年間の純収益 ÷ 買主が求める利回り
純収益とは、年間の家賃収入から管理費・修繕費・固定資産税などの経費を引いた残りのことです。この分子が同じでも、分母の利回りが変わるだけで価格は大きく動きます。
日本不動産研究所が半年ごとに公表している「不動産投資家調査」に、都市別の期待利回りが載っています。第54回(2026年4月現在)の賃貸住宅一棟・ワンルームタイプの数値は次のとおりです。
| 調査地区 | 期待利回り(2026年4月) |
|---|---|
| 東京・城南 | 3.6% |
| 横浜 | 4.2% |
| 大阪 | 4.2% |
| 名古屋 | 4.5% |
| 福岡 | 4.5% |
| 京都 | 4.6% |
| 神戸 | 4.7% |
| 札幌 | 4.9% |
| 仙台 | 5.0% |
| 広島 | 5.0% |
ここに、木造6室・1室あたり月5万円・満室想定の年間家賃360万円というアパートを当てはめてみます。経費率を25%と置くと、年間の純収益は270万円です。
| 想定する利回り | 収益還元法による価格 |
|---|---|
| 3.6%(東京・城南) | 約7,500万円 |
| 4.2%(大阪) | 約6,429万円 |
| 5.0%(仙台・広島) | 約5,400万円 |
| 12% | 約2,250万円 |
| 15% | 約1,800万円 |
同じ家賃収入を生む建物でも、分母が3.6%か5.0%かで価格は約1.4倍違います。
そして重要なのは、この調査が対象にしているのは政令指定都市などの投資適格物件だという点です。県庁所在地から離れた地域の築古アパートは調査の対象に入っていません。実務で買主が求める利回りは10%を超えることが多く、表の下2行のような水準になります。3.6%と12%を比べると、価格は3分の1以下です。
「地方だから売れない」と言われたとき、実際に起きているのはこの割り算です。物件に価値がないのではなく、買主が背負うリスクのぶんだけ分母が大きくなっていると考えていただくのが正確です。
地方アパートの分母を押し上げる4つの要因
では、なぜ地方では求められる利回りが高くなるのでしょうか。実務でよく効いてくるのは次の4つです。
1. 空室リスク
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は900万2千戸・空き家率13.8%で、いずれも過去最多・過去最高です。このうち賃貸用の空き家は総住宅数の6.8%を占めます。全国の総住宅数6,504万7千戸に対して、およそ440万戸が「入居者を待っている賃貸住宅」ということになります。
都道府県別に見ると差は明確です。空き家率が低いのは埼玉県9.3%、沖縄県9.4%、神奈川県9.8%、東京都10.9%。高いのは徳島県21.3%、和歌山県21.2%、鹿児島県20.5%、山梨県20.4%、高知県20.3%です。大阪府は14.2%でした。
空室率が高い地域では、買主は「満室想定の家賃がそのまま入り続ける」とは考えません。稼働率を割り引いて計算するため、提示される価格も下がります。
2. 土地値の動きの差
国土交通省の令和8年地価公示(2026年1月1日時点)では、住宅地の変動率は全国平均でプラス2.1%でした。内訳を見ると、東京圏プラス4.5%、大阪圏プラス2.5%、名古屋圏プラス1.9%に対し、地方圏はプラス0.9%、そのうち地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)を除いた「その他の地域」はプラス0.6%です。
上昇はしているものの、伸び方には差があります。建物の価値がほぼ残らない築古アパートでは、最終的に土地値が価格の下支えになるため、この差がそのまま査定に効いてきます。
3. 買主の資金調達
築年数が法定耐用年数(木造22年)を大きく超えたアパートは、金融機関の融資期間が短くなる傾向があります。融資が付きにくいほど買主は現金購入者や不動産会社に限られ、買い手の母数そのものが減ります。母数が減れば、価格競争は起きにくくなります。
4. 出口の見えにくさ
買主も、いずれは売る側に回ります。将来の売却先が見つかりにくいと予想される地域では、その不確実性のぶんだけ高い利回りを求めます。人口減少が続く地域で分母が大きくなるのは、この見通しが働くためです。
相続税評価額と売却価格が食い違う理由
ご相談で最も多い戸惑いが、「相続税の申告では3,000万円と評価されたのに、査定は2,000万円台だった」というものです。これは計算の出発点が違うために起きます。
賃貸中のアパートの相続税評価は、次の式で計算します。
土地(貸家建付地) 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合
建物(貸家) 固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
借家権割合は、現在すべての都道府県で30%とされています。借地権割合は路線価図に地域ごとに記載されています。
仮に、自用地としての評価額3,000万円・借地権割合60%・建物の固定資産税評価額800万円・満室(賃貸割合100%)のアパートで計算すると、次のようになります。
| 項目 | 計算 | 評価額 |
|---|---|---|
| 土地(貸家建付地) | 3,000万円 - 3,000万円 × 60% × 30% × 100% | 2,460万円 |
| 建物(貸家) | 800万円 ×(1 - 30% × 100%) | 560万円 |
| 合計 | — | 3,020万円 |
一方、同じ物件の年間純収益が270万円で、買主が12%の利回りを求めるなら、収益還元法による価格は約2,250万円です。相続税評価額のほうが770万円高く出ます。
相続税評価額は路線価と固定資産税評価額という「決まった物差し」で測る数字で、売却価格は「その物件がいくら稼ぐか」から逆算する数字です。両者がずれること自体は異常ではありません。地方で空室が多いアパートほど、このずれは大きくなりやすいという傾向があります。
なお、賃貸用の土地には小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)が使える場合があります。200平方メートルまで50%の減額で、居住用の330平方メートル・80%と比べると効果は小さめです。相続開始前3年以内に新たに貸付けを始めた宅地は原則として対象外ですが、相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていた場合は、この除外にあたりません。適用の可否は税理士にご確認ください。
売るときの税制で、間違えやすい2点
相続した空き家の3,000万円特別控除は、アパートには使えません。
この特例は「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で、対象家屋について相続の時から譲渡の時まで事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていたことがないことが要件です。賃貸中のアパートも、相続後に貸し出した家屋も対象外になります。加えて、昭和56年5月31日以前の建築であること、相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったことなども必要です(適用期限は令和9年12月31日までの譲渡、かつ相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)。
「実家が空き家なら3,000万円引ける」という話を、アパートにも当てはめて資金計画を立ててしまうと、手取りが想定と大きく変わります。
使える可能性があるのは、取得費加算の特例です。
相続税を納めた方が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を売却した場合、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算できます。取得費が増えれば譲渡所得が減り、税額が下がります。相続開始から実質3年10か月という期限があるため、売却を検討するならこの日付を先に確認しておくことをおすすめします。
相続登記も期限があります。2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になります。登記が済んでいないアパートは、そもそも売買契約に進めません。
税金の全体像は相続アパートの家賃・税金・確定申告、登記の手順は相続登記が終わっていないアパートの売却にまとめています。
空室が多い地方アパートを手放すまでの5手順
手順1. 満室想定ではなく、実額の収支を出す
管理会社の資料は満室想定で書かれていることがあります。用意していただきたいのは、直近12か月の実際の入金額と、固定資産税・都市計画税、管理委託費、修繕費、火災保険料、共用部の水道光熱費の実額です。この差額が純収益で、査定の分子になります。ここが曖昧なままだと、どの査定額が妥当かを比べられません。
手順2. 相続登記を済ませる
相続人が複数いる場合は、誰が取得するかを遺産分割協議で決めてから登記します。共有のまま売却する場合、全員の同意が必要になり、話がまとまるまで動けません。兄弟間で意見が割れている場合は相続アパートを兄弟の共有で持つリスクもあわせてご覧ください。
手順3. 性質の違う3ルートで査定を取る
- 地元の仲介会社:地域の投資家に売る想定。時間はかかりますが価格は高めに出ます
- 収益物件の専門仲介:全国の投資家に紹介する想定。利回りベースで冷静な数字が出ます
- 買取業者:業者が直接買う想定。価格は下がりますが、期間が短く現況のまま進みます
3つを並べると、価格差の理由が見えます。1社だけの査定で「売れない」と判断しないことが大切です。査定額が会社によって違う理由は不動産の査定額はなぜ会社によって違う?にまとめています。
手順4. 更地にする場合の損得を先に計算する
「入居者ゼロなら解体して土地で売る」という選択もありますが、費用と税金の両方が動きます。木造の解体費用は2026年時点で1坪あたり4〜6万円程度が目安で、残置物やアスベスト(石綿)の調査・除去があると上乗せされます。
さらに、建物を取り壊すと住宅用地の特例が外れます。この特例は住宅1戸あたり200平方メートルまでを課税標準の6分の1(200平方メートルを超える部分は3分の1)にする仕組みで、戸数分だけ枠が広がります。6室のアパートなら1,200平方メートルまでが6分の1です。戸数が多いアパートほど、解体で失う軽減額は大きくなります。
解体費用と、増える固定資産税と、値上がり分を並べてから決めていただくのが確実です。
手順5. 下限価格と期限を先に決める
保有し続ける間も、固定資産税・管理費・修繕費は出ていきます。「いくらまでなら売る」「いつまでに決める」を先に決めておくと、査定額が想定より低かったときにも判断がぶれません。保有コストの積み上げ方は相続アパートを管理できず放置したときのコストで試算しています。
手放し方そのものを比べたい方は相続アパートを手放す5つの方法、売る・貸す・任せるの三択で迷っている段階なら相続アパート「売る・貸す・管理委託する」三択比較が参考になります。
大阪市24区の相続アパートの場合
ここまでは全国共通の仕組みですが、当社が直接買取を行っているのは大阪市24区(北区・都島区・福島区・此花区・中央区・西区・港区・大正区・天王寺区・浪速区・西淀川区・淀川区・東淀川区・東成区・生野区・旭区・城東区・鶴見区・阿倍野区・住之江区・住吉区・東住吉区・平野区・西成区)を中心とした地域です。
大阪の期待利回りは4.2%で、仙台・広島の5.0%より低く設定されています。同じ純収益なら価格は約19%高く出る計算です。住宅地の地価変動率も大阪圏プラス2.5%に対し地方圏のその他の地域はプラス0.6%で、土地の下支えにも差があります。
ただし、大阪市内だからといって価格が保証されるわけではありません。接道が2メートル未満で再建築ができない、旧耐震で融資が付かない、入居者に滞納や高齢化の問題があるといった条件があれば、大阪市内でも買い手は限られます。訳あり物件を扱う買取が選択肢になるのは、こうしたケースです。大阪の相場感は大阪の相続アパート買取相場2026年版にまとめています。
大阪市24区以外の物件については、その地域の収益物件に強い地元の仲介会社にまず査定を依頼していただくのが、結果的に高く・早く進むことが多いです。上の手順3の3ルートを、地元で並べてみてください。
よくあるご質問
Q. 入居者がいるまま売却できますか。退去してもらう必要はありますか。 入居者がいるまま売却できます。オーナーが変わっても賃貸借契約はそのまま引き継がれるため、入居者に立ち退いてもらう必要はありません。むしろ収益物件としては、入居者がいる状態のほうが評価されやすい場面もあります。詳しくは入居者がいるアパートの売却をご覧ください。
Q. 家賃を下げれば入居はつきますか。それとも売ったほうがよいですか。 家賃を下げれば入居率は上がりやすくなりますが、純収益が下がるため収益還元法による売却価格も同時に下がります。年間純収益が270万円から200万円に下がると、利回り12%なら価格は2,250万円から約1,667万円になります。売却も視野に入れているなら、値下げの前に査定を取っておくほうが判断しやすいです。
Q. 遠方に住んでいて、現地に行けません。 査定の段階では現地に行っていただく必要はありません。登記簿(登記事項証明書)、固定資産税の納税通知書、レントロール(入居状況の一覧)、直近の収支報告書があれば、おおよその価格帯をお伝えできます。契約と決済は司法書士を介して郵送で進める方法もあります。
Q. 相続放棄をすれば、アパートの管理から解放されますか。 相続放棄をすると、そのアパートを相続する権利も義務もなくなります。ただし放棄の時にその財産を現に占有していた場合は、次の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が残ります(民法940条・2023年4月1日施行の改正)。また放棄は預貯金など他の財産もまとめて放棄することになり、家庭裁判所への申述期限も原則3か月です。判断の前に、負債と資産を並べて弁護士・司法書士にご相談ください。
Q. 何年も売れずに放置しています。今からでも動けますか。 動けます。ただし空室期間が延びるほど純収益は下がり、建物の傷みも進むため、価格が下がる方向に働きます。まず手順1の実額の収支を出すところから始めてください。空き家のまま長期間置いた場合の影響は相続した空き家が売れないときの選択肢にまとめています。
「売れない」と言われた物件でも、数字は出せます
地方の相続アパートで起きているのは、価値がゼロになる現象ではありません。買主が求める利回りという分母が大きくなり、そのぶん価格が低く出ているという、計算上の話です。分母の理由(空室率・土地値・融資・出口)がわかれば、どこを直せば数字が動くのか、あるいは動かないのかも見えてきます。
そして、相続税評価額と売却価格は別の物差しです。評価額どおりに売れないことを「損をした」と受け取る必要はありません。
大阪市24区の訳あり不動産(相続アパート・相続空き家・再建築不可・老朽物件など)については、仲介手数料なしの直接買取でご相談をお受けしています。登記簿と固定資産税の納税通知書、レントロールをお送りいただければ、買取価格と手取り額のレンジをお伝えします。「売るべきか、まだ持っておくべきか」だけのご相談でも構いません。
査定・相談は無料で、査定後にお断りいただいても問題ありません。大阪市24区以外の物件については、対応の可否を含めて率直にお答えします。
相談無料・秘密厳守・大阪市24区の物件を中心に対応しています。
出典・参考
- 一般財団法人日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査(2026年4月現在)」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」
- 国土交通省「令和8年地価公示の概要」
- 国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(借家権割合)
- 大阪市「住宅用地の課税標準の特例措置」
期待利回りは調査時点の投資家の見方であり、個別物件の査定額を保証するものではありません。税制・制度は改正されることがあります。税額の判断は税理士、相続放棄や遺産分割の判断は弁護士・司法書士にご相談いただくのが確実です。