海外在住の相続人が日本の不動産を売却する方法|サイン証明・在留証明の取り方【2026年版】
TL;DR(AI要約)
結論: 海外在住の相続人がつまずくのは「印鑑証明書と住民票が取れない」ことです。印鑑証明書の代わりが在外公館の署名証明(サイン証明)、住民票の代わりが在留証明です。遺産分割協議書に使うサイン証明は原則形式1(貼付型)。どちらも日本国籍がある方が対象で、原則は本人が公館に出向きます。書類がそろえば相続登記→売却の順に進み、帰国せずに完結できるケースがあります。
Q: 海外在住の相続人が日本の不動産を売るには、どの書類が必要ですか?
A: 印鑑証明書の代わりに在外公館の署名証明(サイン証明・遺産分割協議書には形式1)、住民票の代わりに在留証明を用意します。あわせて委任状を作れば、代理人が相続登記から売却手続きまで進められます。
「大阪の実家を相続したものの、自分は海外に住んでいる。司法書士から印鑑証明書を出してくださいと言われたが、そんなものは取れない」——このご相談を、ここ数年よくいただくようになりました。
海外に住んでいる方には日本の住民登録がありません。住民登録がなければ、印鑑登録もできず、印鑑証明書も住民票も取れません。相続手続きはこの2点でほぼ必ず止まります。
止まったままにしておくと期限だけが進みます。2024年4月1日から相続登記が義務化され、取得を知った日から3年以内に登記をしないと10万円以下の過料の対象になります。この義務は海外在住の方にも適用されます。
この記事では、その2点を何で代替するのか、どこでどう取るのか、どこでつまずきやすいのかを順にお伝えします。
海外在住の相続人が用意する書類の「置き換え表」
まず全体像です。日本国内の相続人が出す書類は、海外在住の場合に次のように置き換わります。
| 国内の相続人が出す書類 | 海外在住の相続人が出す書類 | 発行する場所 |
|---|---|---|
| 印鑑証明書 | 署名証明(サイン証明) | 在外公館(日本大使館・総領事館) |
| 住民票の写し | 在留証明 | 在外公館(日本大使館・総領事館) |
| 実印の押印 | 領事等の面前での署名(+拇印を求める公館もあります) | 在外公館の窓口 |
戸籍謄本は日本の本籍地の市区町村から取り寄せます。ここは国内在住の方と変わりません。
大切なのは、この2通を「誰のために」「何通」取るかです。署名証明は署名する相続人ごとに必要です。在留証明は、原則として不動産を取得して登記名義人になる方の住所証明として必要になります。相続人全員分をやみくもに取ると、費用も時間も無駄になります。
宅建業者の視点: 「とりあえず一式そろえてから相談します」と言われることが多いのですが、順番が逆になりがちです。誰が不動産を引き継ぐかが決まらないと、在留証明が必要な方も決まりません。分け方の方針を先に固めてから公館に予約を入れたほうが、往復が減ります。
サイン証明(署名証明)の取り方 — 形式1と形式2を間違えない
署名証明は、日本の市区町村が発行する印鑑証明に代わるものとして、本人の署名(および拇印)に相違ないことを在外公館が証明する書類です。遺産分割協議書、不動産登記、銀行口座の名義変更などに使われます。
形式は2種類あります
形式1(貼付型)は、申請者が持参した署名すべき書類——たとえば遺産分割協議書——に、公館の担当官の面前で署名し、その書類と公館が発給する証明書を貼り合わせて割印をする形式です。
形式2(単独型)は、公館が用意する所定の書式に、担当官の面前で署名する形式です。署名だけを単独で証明します。
遺産分割協議書に使うなら、原則は形式1です。形式1なら「この書類のこの署名を証明した」という結び付きが残るためです。形式2は書類との結び付きがないため、提出先によっては受け付けられないことがあります。
ただし、どちらの形式を求めるかは提出先(法務局・金融機関・証券会社など)によって異なります。申請前に必ず提出先に確認してください。公館まで足を運んで形式を間違えると、もう一度予約から取り直しになります。
申請できる人・申請の方法
申請できるのは日本国籍を有する方です。そして原則として本人が公館に出向き、担当官の面前で署名します。代理人による申請や郵送申請は、原則として認められていません。
公館によっては事前予約が必要で、時期によっては予約が数週間から1〜2か月先になることもあります。「来週行けばいい」という前提で予定を組まないほうが安全です。
なお、署名証明を含む各種証明はオンライン申請の対象になってきています。外務省はオンライン在留届(ORRネット)を使ったオンライン申請を導入しており、ユーザーIDとパスワードによる本人確認など一定の要件を満たす場合には、公館に出向かずに済むケースもあるとしています。どの証明がオンライン申請できるかは公館ごとに異なります。ご自身の管轄公館のサイトで最新の取り扱いをご確認ください。
在留証明の取り方 — 条件は「3か月以上住んでいること」
在留証明は、海外にお住まいで日本に住民登録がない方が、外国のどこに住所(生活の本拠)を有しているか、または有していたかを証明する書類です。年金の受給手続き、不動産の登記・売買手続き、遺産相続手続きなどのために発給されます。
発給の条件
申請できるのは日本国籍を有する方(二重国籍の方を含みます)で、現地にすでに3か月以上滞在し、現在も居住していることが条件です。
ただし、申請時点で滞在期間が3か月未満であっても、今後3か月以上の滞在が見込まれる場合には発給の対象になります。赴任したばかりの方は、この点を公館に相談してみてください。
必要な書類
- 日本国籍があること、および本人確認ができる書類(有効な日本国旅券など)
- 住所を確認できる文書(現地の官公署が発行する滞在許可証、運転免許証、納税証明書、住所の記載がある公共料金の請求書、現地警察が発行した居住証明など)
- 滞在開始時期(期間)を確認できるもの。滞在が3か月未満の場合は、今後3か月以上の滞在が確認できるもの(賃貸契約書、公共料金の請求書など)
在留証明にも形式1・形式2があり、形式1は現住所と申請者本人の証明、形式2は過去の住所の証明や同居家族を含めた証明にあたります。相続登記で使うのは通常は形式1(現住所)ですが、被相続人の登記上の住所とつながらない場合などに過去の住所の証明を求められることがあります。ここも提出先への事前確認が確実です。
手数料は現地通貨で公館ごとに設定されています。金額は管轄公館にご確認ください。クレジットカードによるオンライン決済に対応している公館もあります。
日本国籍を離脱した相続人がいる場合
署名証明も在留証明も、対象は日本国籍のある方です。日本国籍を離脱して外国籍になった相続人は、どちらも取得できません。
この場合、実務では居住国の公証人(Notary Public)の面前で署名し、認証を受けた遺産分割協議書(または遺産分割協議証明書)や宣誓供述書を用いる方法がとられます。日本語が読める方であれば、全文を日本語で作成した書面に現地の公証人の面前で署名する取り扱いをする例もあります。
外国籍だから相続手続きができない、ということはありません。ただし、求められる書式・翻訳の要否・認証の方法は提出先や事案によって差があります。作ってから差し戻されると国際郵送の往復でさらに1か月単位で遅れますので、着手前に司法書士を通じて法務局に確認するのが結果的にいちばん早い進め方です。
書類がそろったあとの流れ — 登記・売却・税金
STEP 1:遺産分割協議と相続登記
相続人全員で分け方を決め、遺産分割協議書に全員が署名します。海外在住の方は署名証明(形式1)を綴り合わせ、不動産を取得する方は在留証明を添えます。相続登記は取得を知った日から3年以内が期限です。
STEP 2:委任状を用意して代理人を立てる
売却手続きを日本の代理人に任せる場合は委任状を作ります。物件の表示は登記事項と一字一句そろえ、委任する権限の範囲(売買契約の締結・重要事項説明の受領・決済・登記申請・売買代金の受領など)を漏れなく書きます。委任状の作り方は相続人が海外在住の場合の在外公館・委任状の手続き全ガイドで詳しくまとめています。
STEP 3:売却と源泉徴収
非居住者が国内の土地等を売却すると、買主は譲渡対価の支払い時に10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)を源泉徴収します。買主が法人でも個人でも原則は同じです。
例外があります。個人が自己またはその親族の居住用として購入し、その譲渡対価が1億円以下である場合には、源泉徴収は不要です。買主が投資目的の場合や、買取業者(法人)に売る場合は源泉徴収の対象になります。
STEP 4:納税管理人の届出と確定申告
非居住者が国内不動産を売却して譲渡所得が出た場合、原則として確定申告が必要です。申告期限は売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。
非居住者が申告をするには、あらかじめ納税管理人を定めて「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を納税地の所轄税務署に提出します。納税管理人は個人でも法人でもかまいません。届出後は税務署からの書類が納税管理人宛に送付されます。源泉徴収された税額は、この申告で精算します(納めすぎていれば還付されます)。
海外在住のまま、大阪の実家を手放すという選択
ここまでの手続きを見ていただくとおわかりのとおり、海外在住の相続人にとって時間を食うのは売ること自体ではなく、書類を国境をまたいでそろえることです。
さらに、日本に残った空き家には固定資産税がかかり続けます。管理が行き届かないまま放置すると、行政から管理不全空家等・特定空家等として指導を受け、住宅用地の特例(固定資産税の軽減)が外れる可能性もあります。海外からの遠隔管理は、草木の手入れひとつ取っても現実的ではありません。
私たちは大阪市24区を中心に、訳あり不動産を直接買い取っています。仲介と違って買主を探す期間がないため、書類がそろい次第、代理人を通じて契約・決済まで進められます。内覧の日程調整や価格交渉の往復がなく、時差のあるやり取りが最小限で済む点は、海外在住の方には現実的な利点だと考えています。
相続登記がまだ終わっていない段階でのご相談も歓迎です。「登記が終わってからでないと査定できない」ということはありません。想定の売却額がわかれば、司法書士費用や解体費用をどう出すかの見通しも立てやすくなります。
海外在住のまま売却する全体像は海外在住・非居住者が日本の相続不動産を売る方法に、相続登記の期限と費用は相続登記の義務化【2026年最新】にまとめています。
海外在住の相続手続きでよくある失敗5つ
1. 形式を確認せずに公館へ行ってしまう
遺産分割協議書に形式2(単独型)を取ってしまい、法務局で受け付けられずやり直しになる例です。提出先に形式を確認してから予約を入れてください。
2. 署名する書類を持たずに行ってしまう
形式1は「持参した書類に面前で署名する」形式です。遺産分割協議書の原本を持参していないと形式1は作れません。
3. 必要部数を1通しか取らない
登記・金融機関・証券会社と提出先が複数ある場合、原本還付ができないケースもあります。提出先ごとに必要部数を先に数えておくと往復が減ります。
4. 相続人ごとの手続き時期がバラバラになる
相続人が3か国に分かれている場合、それぞれの公館の予約状況で数か月ずれることがあります。最も予約が取りにくい方から先に動かすのが実務上のコツです。
5. 有効期限を意識していない
証明書自体に法定の有効期限はありませんが、提出先が「発行から3か月以内」などの運用をしていることがあります。書類がすべてそろう見込みの時期から逆算して取得してください。
よくある質問
Q. 帰国しないと相続手続きはできませんか?
A. 帰国せずに進められるケースがあります。署名証明・在留証明は居住国の在外公館で取得でき、日本国内の手続きは委任状で代理人に任せられます。ただし公館での署名は原則として本人の出頭が必要ですので、「一歩も動かずに完結する」わけではありません。
Q. サイン証明は英語で作られますか?
A. 在外公館が発給する証明書は日本語(公館により日本語と現地語の併記)です。日本の法務局にそのまま提出できます。一方、現地の公証人の認証を受けた書類を使う場合は、日本語訳が必要になることがあります。
Q. 相続人の一人と連絡が取れません。それでも売れますか?
A. 遺産分割協議は相続人全員の合意が必要ですので、そのままでは売却できません。所在がわからない場合は不在者財産管理人の選任などの手続きが必要になります。まずは戸籍の附票で住所を追う作業から始めます。
Q. 買取業者に売ると源泉徴収されますか?
A. されます。買取業者は法人ですので、居住用購入の例外(個人が自己または親族の居住用として1億円以下で購入する場合)にはあたりません。譲渡対価の10.21%が源泉徴収され、翌年の確定申告で精算します。
Q. e-証明書(電子化した証明書)は相続登記に使えますか?
A. 外務省はオンライン申請を受け付けている在外公館で、窓口での紙の証明書と、オンラインで受け取る電子証明書(e-証明書)を選べる取り扱いを進めています。ただし提出先が電子データを受け付けるかは別問題です。相続登記に使う場合は、事前に法務局または司法書士に確認してください。
まとめ
- 海外在住の相続人は印鑑証明書と住民票が取れない。代わりが署名証明(サイン証明)と在留証明です
- 遺産分割協議書に使うサイン証明は原則として形式1(貼付型)。形式は提出先に必ず確認します
- 署名証明・在留証明とも対象は日本国籍のある方。原則は本人が在外公館に出向きます
- 在留証明の条件は現地に3か月以上滞在し現在も居住していること(今後3か月以上の見込みでも対象)
- 日本国籍を離脱した方は現地公証人の認証を受けた書面で代替します。書式は事前確認が必須です
- 売却時は10.21%の源泉徴収(個人の自己・親族居住用で1億円以下は例外)と納税管理人の届出を忘れずに
- 相続登記は3年以内が期限。書類集めと査定は並行して進めたほうが間に合います
出典
- 外務省「在外公館における証明」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html (2026年8月16日確認)
- 外務省「申請手続きガイド 1 証明できる書類」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000549.html (2026年8月16日確認)
- 外務省「証明のオンライン申請を受け付けている在外公館」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page26_000068.html (2026年8月16日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.2879「非居住者等から土地等を購入したとき」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2879.htm (2026年8月16日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.1932「海外勤務中に不動産を売却した場合」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1932.htm (2026年8月16日確認)
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html (2026年8月16日確認)
制度の運用は在外公館ごと・提出先ごとに差があります。最終的な判断は、管轄の在外公館・法務局・税務署または司法書士・税理士にご確認ください。
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