空き家のミカタ

「今は困ってない」実家放置のリスク|数年後に効いてくる負担を時系列で整理

空き家のミカタ編集部|宅地建物取引業者(大阪府知事(1)第65646号)
誰も住まなくなった日本の木造一戸建て住宅の外観 相続した実家を空き家のまま放置している状態のイメージ

この記事でわかること

  • 「今は困っていない」のに数年後に負担が出てくる、その仕組み
  • 放置1年目から10年目までに何が起きるかの時系列表
  • 戻せない4つの期限(相続税10か月・相続登記3年・空き家控除・取得費加算)
  • 毎年出ていく費用と、住宅用地特例が外れる条件
  • 売れる物件が売れない物件に変わる分岐点

親が亡くなって実家を引き継いだけれど、今のところ特に困っていない。固定資産税は口座から落ちているし、近所から苦情が来たこともない。年に何度か様子を見に行けば、それで回っている——こうした状態の方から、よくご相談をいただきます。

まず申し上げたいのは、「今は困っていない」という認識は、たいていの場合正しいということです。空き家にしておくこと自体は違法ではありませんし、誰かに責められる話でもありません。

問題は別のところにあります。実家の放置で発生する負担は、放置した瞬間ではなく、数年後にまとめて効いてくるという点です。しかも、そのときには選べる手段が減っています。この記事では、何がいつ効いてくるのかを、法令と公的な数字にもとづいて時系列で整理します。

「困っていない」のに負担が積み上がる3つの経路

実家の放置で生じる負担は、性質の違う3つの経路に分かれます。この区別をしておくと、自分の実家がどの段階にいるのかが判断しやすくなります。

経路 何が起きるか 気づくタイミング
① 期限切れ型 使えたはずの税の特例が、期限を過ぎて使えなくなる 売ろうと動き出したとき。取り戻す方法はありません
② 累積型 固定資産税・保険・管理費が毎年出ていく。勧告を受ければ税額が上がる 通知が届いたとき。気づく頃には数年分が出ています
③ 状態悪化型 建物が傷み、権利関係が分散し、売れる条件から外れていく 査定を頼んだとき。元に戻すには費用がかかります

このうち、いちばん見えにくいのが①の期限切れ型です。②の累積型は通帳を見れば気づきますし、③の状態悪化型は現地に行けば目に入ります。ところが①は、何も通知が来ないまま、静かに期限だけが過ぎていきます。売ろうと決めた時点で「3か月前なら使えたのですが」と言われる、というのが実際に起きていることです。

なお、この状況にあるのはご自身だけではありません。総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は900万2千戸で空き家率13.8%、いずれも過去最多・過去最高でした。このうち賃貸用・売却用・別荘のいずれでもない、いわゆる使い道が決まっていない空き家は385万6千戸あり、2018年から36万9千戸増えています。

ひろきさんの一言

相談の入口でいちばん多いのが「まだ大丈夫だと思っていました」という言葉です。これは判断が甘かったという話ではなくて、期限が来ることを誰も教えてくれない仕組みになっているだけなんです。役所から「あと半年で控除が使えなくなります」という手紙は届きません。だからこそ、困っていない今のうちに日付だけ確認しておく価値があります。

時系列表:放置1年目から10年目に何が起きるか

相続開始から効いてくる4つの期限の時系列図 相続税申告10か月・相続登記3年・空き家3000万円特別控除・取得費加算の特例の順に期限が到来することを示した図

上の図は税と登記の期限だけを抜き出したものです。実際には、これに建物の劣化と権利の分散が重なります。全体を並べると次のようになります。

経過 制度・お金の面 建物・権利の面
〜10か月 相続税がかかる場合は申告・納付の期限 家財がそのまま残っている。まだ人が住める状態
1年目 固定資産税・都市計画税の納税通知書が自分宛に届き始める 庭木と雑草が伸びる。郵便物がたまり始める
2〜3年目 相続登記の申請期限(3年)空き家3,000万円特別控除の期限が近づく 通気がなく畳・建具にカビ。雨樋の詰まりから外壁に水がまわる
3年10か月 取得費加算の特例の期限。以降、譲渡所得税の負担が重くなる可能性 シロアリ・小動物の侵入。屋根材のずれ
4〜5年目 市町村から管理に関する連絡・助言・指導が届くことがある 雨漏りが天井裏から室内へ。買主が現況では見に来なくなる
5〜7年目 勧告を受けると住宅用地特例が外れ、土地の固定資産税の課税標準が上がる 解体前提の評価になる。近隣との越境・落枝のトラブル
8〜10年目 累積した税・保険・管理費が、当初想定した売却額に迫ることがある 相続人がさらに亡くなり、協議に必要な人数が増える

年数はあくまで典型例です。木造か鉄骨か、風通しがあるか、雪が積もる地域かで進み方は変わります。ただし順序は変わりません。制度の期限が先に切れ、そのあとで建物と権利の問題が表に出てきます。

期限切れ型:あとから取り戻せない4つの日付

ここが一番重要な部分です。以下の4つは、過ぎてしまうと原則として復活しません。

① 相続税の申告・納付(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)

基礎控除の範囲内なら申告そのものが不要ですが、期限を過ぎてからの申告は加算税・延滞税の対象になります。実家以外に預貯金や有価証券がある場合は、早めに税理士に相談されることをおすすめします。

② 相続登記の申請義務(取得を知った日から3年以内)

2024年4月1日から義務化されました。不動産登記法第76条の2第1項は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」と定めています。正当な理由なく怠った場合、同法第164条第1項により10万円以下の過料の対象になります。

遺産分割の話し合いがまとまらず3年以内に登記まで進められないときは、相続人である旨の申出(相続人申告登記・同法第76条の3)で申請義務を履行したものとみなす仕組みが用意されています。話がまとまらないこと自体は珍しくありませんので、まずこちらを検討してください。

③ 空き家の3,000万円特別控除(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)

国税庁タックスアンサーNo.3306の特例です。相続した実家を売って利益が出たとき、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。ただし要件が細かく、次の点に注意が必要です。

  • 区分所有建物登記がされている建物は対象外です。分譲マンションを相続した場合、この特例は使えません
  • 売却期限は「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」。3年ちょうどではなく、その年の年末までです
  • 売却時に一定の耐震基準を満たすか、家屋を全部除却して敷地だけを売る必要があります。令和6年以後の譲渡については、譲渡後2か月以内に買主が耐震改修または除却をした場合も対象になります
  • 令和6年1月1日以後の譲渡で、相続または遺贈により取得した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円に下がります
  • 制度自体の適用期限は令和9年12月31日までの譲渡です

④ 取得費加算の特例(相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで)

相続税を納めた方が対象です。納めた相続税のうち一定額を、売却時の取得費に加算できます(国税庁タックスアンサーNo.3267)。相続開始から数えると、おおむね3年10か月が期限です。

敷地に草木が伸びた空き家の外観 管理されないまま数年が経過した実家の状態

累積型:毎年出ていくお金と、税額が上がる条件

何もしなくても毎年かかるもの

誰も住んでいなくても、次の費用は発生し続けます。

  • 固定資産税・都市計画税:所有している限り毎年
  • 火災保険料:損害保険料率算出機構の物件区分では、住宅物件は「住居としてのみ使用する建物」とされています。長期間人が住んでいない建物は、保険会社によって引受条件や区分の扱いが変わることがあるため、更新時に確認が必要です
  • 水道・電気の基本料金:通水や換気のために契約を残している場合
  • 草刈り・見回りの費用:自分で行くなら交通費と時間、業者に頼むなら実費

金額は物件ごとに大きく変わりますが、数年分をまとめて見ると、当初思っていた売却額の一部を先に払っている状態になっていることがあります。

勧告を受けると、土地の固定資産税が上がる仕組み

「空き家の固定資産税が6倍になる」という話を聞いたことがあるかもしれません。この仕組みの根拠は地方税法第349条の3の2です。

同条第2項により、住宅用地のうち200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は課税標準が価格の6分の1に、第1項によりそれを超える部分は3分の1に軽減されています。この軽減の対象となる「住宅用地」の定義から、次の2つが明文で除かれています。

  1. 空家等対策の推進に関する特別措置法第13条第2項の規定により勧告を受けた「管理不全空家等」の敷地
  2. 同法第22条第2項の規定により勧告を受けた「特定空家等」の敷地

つまり、空き家になった時点で上がるのではなく、勧告を受けた時点で軽減の対象から外れるという構造です。しかも段階があります。同法第13条第1項は、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれのある状態を「管理不全空家等」と定義し、市町村長がまず指導を行うと定めています。指導をしてもなお改善されない場合に、第2項の勧告に進みます。

2023年12月13日に施行された改正(令和5年法律第50号)で、この管理不全空家等の段階が新設されました。従来は「特定空家等」に指定されるほど傷んで初めて対象でしたが、その手前の段階でも勧告の対象になりうるということです。逆に言えば、指導の通知が届いた段階で草木の伐採や修繕に対応すれば、勧告には至りません。届いた封筒を開けないまま置いておくことが、一番避けたい対応になります。

固定資産税の詳しい試算は「空き家の固定資産税6倍化の回避策と売却タイミング」で扱っています。

状態悪化型:売れる物件が売れない物件に変わる分岐点

屋根と外壁が傷み倒壊が進んだ空き家 放置により建物の劣化が進行した状態の例

買取の現場で見ていると、価格が大きく動く分岐点はだいたい決まっています。

分岐点 越える前 越えた後
雨漏りが躯体に達する 部分補修で住める建物として評価 解体前提の評価。解体費が価格から引かれる
残置物が室内に残ったまま数年 現況のまま引き取れる範囲 湿気で家財が傷み、処分区分が増えて撤去費が上がる
境界標が見えなくなる 現地で確認でき、隣地と合意しやすい 測量と立会いが必要になり、時間と費用が増える
相続人がさらに亡くなる 兄弟間の話し合いで決められる 甥・姪まで含めた全員の合意が必要になる

このうち、費用面でも心理面でもいちばん重いのが最後の相続人の分散です。建物の傷みは費用を払えば解決しますが、会ったこともない親族に連絡を取り、実印をもらう作業には、お金では解決できない負担があります。しかも人数は一方的に増えていき、減ることはありません。

ひろきさんの一言

「もっと早く相談すればよかった」と言われるのは、たいてい建物の話ではなく人の話です。傷んだ屋根は直せますが、10年前に亡くなった叔父さんの相続人を探す作業は、こちらが何をしても短縮できません。逆に言うと、いま相続人が2人か3人で収まっているなら、それは今しかない条件です。急いで売る必要はありませんが、誰が関係者なのかだけは今のうちに書き出しておいてください。

「今は困っていない」うちにやっておく3つのこと

売る・売らないを今日決める必要はありません。判断を先送りしたままでも、次の3つはやっておく価値があります。いずれも費用はほとんどかかりません。

1. 4つの日付をカレンダーに入れる

相続開始日を起点に、①10か月後、②3年後、③3年を経過する日の属する年の12月31日、④3年10か月後をメモしておきます。これだけで、期限切れ型の負担はほぼ防げます。

2. 相続人の一覧を書き出す

現時点で相続人が誰なのかを紙に書き出します。人数が3人以内で全員と連絡が取れるなら、手続きの負担は軽い状態です。すでに連絡が取れない方がいるなら、それは時間が解決しない種類の問題なので、優先度を上げてください。

3. 役所からの郵便物を開ける習慣をつける

管理不全空家等の制度は、指導が先に来て、改善されない場合に勧告へ進みます。最初の通知に対応すれば、住宅用地特例が外れる段階には進みません。空き家の住所宛ではなく所有者の住所宛に届くため、心当たりのない差出人の封筒でも中身を確認してください。

よくある質問

Q: 実家を賃貸に出せば、放置のリスクは避けられますか?

A: 人が住むことで劣化の進行は確実に遅くなりますし、収入も入ります。ただし、貸すには一定の修繕が必要になることが多く、その費用と回収期間を先に計算しておく必要があります。また、いったん賃借人が入ると、こちらの都合だけで契約を終わらせることは難しくなります。将来的に売る可能性があるなら、貸す前にその点を確認してください。

Q: 兄弟で「とりあえず共有名義」にしました。これは問題ですか?

A: 相続登記の義務は果たせますが、売却の場面では全員の同意が必要になります。人数が少ないうちは問題になりにくい一方、共有者の誰かが亡くなるとその持分が次の世代に分かれていきます。共有は、時間が経つほど解消しにくくなる状態だとお考えください。

Q: 解体してから売ったほうが高く売れますか?

A: 一概には言えません。更地にすると買主の幅は広がりますが、解体費を先に自己負担することになり、翌年の1月1日時点で建物がなければ住宅用地特例も外れます。一方、空き家の3,000万円特別控除を使う場合は、除却が要件になるケースがあります。税の特例を使うかどうかで結論が変わるため、解体を決める前に確認されることをおすすめします。

Q: 遠方に住んでいて、現地に行けません。それでも進められますか?

A: 進められます。買取の場合、現地確認は当社側で行いますので、売主の方の立会いは必須ではありません。必要になるのは登記関係の書類と、最終的な決済時のやり取りです。まずは所在地と、わかる範囲の現状をお知らせいただければ、確認すべき点をお伝えできます。

Q: 相談したら、売るように勧められますか?

A: 「今は動かないほうがいい」とお伝えすることもあります。ご家族の事情で数年は残しておきたい実家であれば、その間の管理コストを抑える方向で考えたほうが合理的です。判断材料をお渡しするところまでが、私たちの役割だと考えています。

まとめ

「今は困っていない」実家について、押さえていただきたい点は3つです。

  1. 負担は放置した瞬間ではなく、数年後に効いてきます。そして効いてくる順序は決まっています。まず税の特例の期限が切れ、次に登記義務の期限が来て、そのあとで建物と権利の問題が表に出てきます
  2. 戻せないのは日付だけです。建物の傷みは費用で、書類の不足は手間で解決できますが、過ぎた期限は取り戻せません。相続開始日から4つの日付を計算するだけなら、今日15分でできます
  3. 固定資産税の軽減は、空き家になった時点では外れません。外れるのは勧告を受けたときです。その前に指導の段階があるので、届いた通知に対応すれば止められます

売る・売らないを今決める必要はありません。決めなくてもいいことと、今のうちに確認しておいたほうがいいことを分ける——それだけで、数年後の選択肢はかなり違ってきます。


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出典(2026年8月20日確認)

建物の劣化年数、買取価格が動く分岐点、管理費用の内訳は、法令や公的統計に基づく数値ではなく、当社が大阪市内の買取実務で見てきた範囲に基づく目安です。物件の構造・立地・管理状況によって変わります。税の特例の適用可否は個別の事情によって判断が分かれるため、実際の適用にあたっては税務署または税理士にご確認ください。

画像: 「Akiya in Hikari 2026」「Akiya in Tabuse 2026」by Kuroshio no Neko(Wikimedia Commons, CC BY 4.0)/「Abandoned house in Mikasa, Hokkaido, April 2023」by Calistemon(Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)/期限の時系列図は空き家のミカタ編集部作成


執筆監修: 八木宏樹(合同会社アルシェ代表・宅建業免許: 大阪府知事(1)第65646号)|空き家のミカタ代表。専門分野: 他社に断られた訳あり不動産の直接買取。大阪市24区を中心に、相続で引き継いだ空き家・再建築不可・共有持分の物件を現況のまま査定しています。

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