借地を地主に返すときの手順|更地にする義務と建物買取請求権【2026年版】
地主から「更地にして返してほしい」と言われて、解体業者に見積もりを取り始めていませんか。結論から申し上げると、借地を返すときに必ず更地にしなければならないわけではありません。ただし「更地にしなくてよい」と言えるのは、契約の終わり方が限られた形になっている場合だけです。
この記事の結論 — まずここだけ
- 借地権の期間が満了し、契約の更新がないときは、建物を時価で買い取るよう地主に請求できます(借地借家法第13条第1項)
- その規定に反する、借地権者に不利な特約は無効です(同法第16条)。契約書に「更地で返す」とあっても、それだけで結論は決まりません
- 逆に、ご自身から「返したい」と申し出た合意解約では、この請求権は原則として使えません。順番を間違えると条件を戻せなくなります
- 解体費は木造30坪でおよそ90〜150万円。先に解体すると、建物の価値はゼロになります
- やることの順番は「契約書の確認 → 終わり方の確定 → 評価 → 書面化 → 引渡し」です
この記事では、地主への返還を求められた方が何をどの順番で確認すればよいかを、条文と数字で整理しました。相続で借地上の実家を引き継いだ方からのご相談が特に増えている論点です。
まず確認するのは「契約がどう終わるのか」です
借地の返還で結論が分かれるのは、建物の古さでも土地の広さでもありません。契約がどの形で終わるのかです。ここが決まらないうちに解体の話を進めると、本来受け取れたはずのお金が受け取れなくなります。
終わり方は、大きく次の3つに分かれます。
| 契約の終わり方 | 建物買取請求権 | 解体費の負担 |
|---|---|---|
| ① 存続期間が満了し、契約の更新がない | 使える(借地借家法第13条第1項) | 建物ごと引き渡すため、原則として解体は不要 |
| ② 当事者の合意で解約する(自分から返す) | 原則として使えない | 契約書や合意の内容に従う(更地返還が多い) |
| ③ 地代の滞納などを理由に契約が解除された | 原則として使えないと解されています | 借地権者の負担になることが多い |
「地主から更地で返してほしいと言われた」という状況は、①と②のどちらにも転びます。期間が満了していて地主が更新を拒んでいるのか、それとも期間の途中で話し合って終わらせようとしているのかで、立場がまったく変わります。
なお、地主が更新を拒む(異議を述べる)には、双方が土地を使う必要性のほか、これまでの経過や土地の利用状況、明渡しの条件として地主が財産上の給付をする旨の申出をした場合にはその申出も考慮したうえで、正当の事由があると認められる場合でなければならないと定められています(借地借家法第6条)。ここでいう「財産上の給付」が、いわゆる立退料にあたります。
宅建業者の視点: ご相談の入口でいちばん多い誤解が、「地主さんが返してほしいと言っているのだから、こちらは従うしかない」という思い込みです。実際には、期間満了の場面で地主が更新を拒むには正当の事由が必要で、その条件を整えるために金銭が動くのが通常です。返答をする前に契約書の日付と期間を確認していただくだけで、話の前提が変わることがあります。
建物買取請求権(借地借家法第13条)が使える場面・使えない場面
借地借家法第13条第1項は、次のように定めています。
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
読み取れるポイントは3つです。
1つめは、条件が「存続期間の満了」と「更新がないこと」の2つそろったときだという点です。期間の途中で合意して終わらせる場合や、地代の滞納などを理由に契約が解除された場合には、原則としてこの請求はできないと解されています。ご自身から「返します」と先に伝えてしまうと、②の合意解約の枠に入り、この権利を前提にした交渉ができなくなる可能性があります。
2つめは、対象が「建物その他土地に附属させた物」であり、借地権そのものではないという点です。受け取れるのは建物の時価であって、借地権の価値が上乗せされるわけではありません。築年数の経った木造住宅では、建物単体の評価が思ったより伸びないことは珍しくありません。
3つめは、この規定に反する特約の扱いです。同法第16条は、第13条・第14条の規定に反する特約で借地権者または転借地権者に不利なものは無効とすると定めています。つまり、契約書に「契約終了時は建物を収去して更地で返還する」と書かれていても、期間満了で更新がない場面についてはその文言だけで決着するとは限りません。
もうひとつ知っておいていただきたいのが、契約が古い場合の扱いです。借地借家法は1991年10月4日に公布され、公布から1年以内に施行されました(同法附則第1条)。それより前に設定された借地権については、契約の更新に関して従前の例(旧借地法)によるとされています(同法附則第6条)。契約書の締結日が古いときは、期間の数え方が現在の法律と異なる場合がありますので、日付を必ずご確認ください。
「有償で返す」ときに動くお金は3種類あります
有償返還と一口に言っても、実務では性質の違う3つのお金が混ざって語られています。どれの話をしているのかを分けておくと、交渉がぶれません。
| お金の種類 | 根拠・場面 | 金額の考え方 |
|---|---|---|
| 建物の買取代金 | 期間満了かつ更新なし(第13条第1項) | 建物などの時価。借地権の価値は含まない |
| 借地権の譲渡代金 | 借地権を地主に買い取ってもらう合意 | 借地権としての評価。相続税路線価では借地権割合が付されています |
| 立退料 | 地主の更新拒絶の正当事由を補う財産上の給付(第6条) | 事情を総合して当事者間で決まる |
いちばん手取りが大きくなりやすいのは、2つめの「借地権を地主に買い取ってもらう」形です。建物の時価だけを見る第13条と違い、借地権という財産そのものを評価する話になるためです。地主の側にも、借地権を戻して土地を完全な所有権に戻せる(=売却も活用もしやすくなる)という利益があります。
一方で、地主に資金がない、あるいは買い取る意思がないという場合もあります。そのときは第三者への売却という選択肢が残ります。詳しくは借地権付き建物の売却方法|地主の承諾から買取までで整理しています。
手続きの正しい順序(5ステップ)
STEP 1 契約書と登記を確認する
確認するのは契約の締結日・存続期間の満了日・更新の記録・建物の登記の有無です。契約書が見当たらない場合でも、建物の登記事項証明書や地代の領収書、固定資産税の課税明細から状況を組み立てられることがあります。相続で引き継いだ借地であれば、建物の名義が亡くなった方のままになっていないかも併せてご確認ください。
STEP 2 「どの終わり方か」を先に決める
前述の①〜③のどれに当たるのかを確定させます。ここで「わかりました、更地にしてお返しします」と答えてしまうと、②の合意解約として扱われ、建物買取請求権を前提とした話ができなくなる可能性があります。返事を急がず、期間満了日と更新の有無を確認してから回答してください。
STEP 3 金額の話をする前に評価を取る
建物の時価と借地権の価値の見当がついていない状態で条件交渉に入ると、提示された金額が高いのか安いのか判断できません。解体の見積もりより先に、建物と借地権の評価を取ってください。
STEP 4 合意内容を書面にする
決めておく項目は、更地返還か現況引渡しか/解体費の負担者/明渡しの期日/地代の精算方法/受け取る金額と支払時期です。口頭の約束のままだと、解体が終わった後で「その金額は聞いていない」という食い違いが起きます。
STEP 5 引渡し・解体・登記の後始末
解体した場合は、滅失の日から1ヶ月以内に建物の滅失の登記を申請しなければなりません(不動産登記法第57条)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(同法第164条第1項)。対価を受け取った場合は、翌年の確定申告が必要になることがあります。
宅建業者の視点: 順番の中でいちばん取り返しがつかないのがSTEP 3です。解体してしまった後で「やはり建物ごと引き取ってもよかった」となっても、もう建物はありません。私たちがご相談を受けたときに最初にお願いしているのは、解体業者への発注をいったん止めていただくことです。
更地にして返す場合にかかる費用と税金
更地で返すと決めた場合、実際に出ていくお金は次のとおりです。
- 解体費用: 木造30坪でおよそ90〜150万円。前面道路が狭く重機が入らない土地や、隣家と接している長屋では割高になります
- 建物滅失登記: ご自身での申請も可能ですが、土地家屋調査士に依頼する場合は報酬が発生します
- 残置物の処分費: 家財が残っている場合は別途かかります
税金の扱いも押さえておいてください。対価を受け取った場合、譲渡所得は「収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」で計算します。建物を取り壊して土地を引き渡すときの取壊し費用は、譲渡費用に含まれるとされています(国税庁タックスアンサーNo.3202)。取得費が分からない場合は、売った金額の5%を取得費とすることができます(同No.3258)。税率は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば15%、5年以下であれば30%です(同No.1440。このほかに復興特別所得税がかかります)。
解体費を自己負担したうえで対価もない、という条件で合意してしまうと、手元にはマイナスだけが残ります。更地返還に応じる前に、その条件が本当に妥当なのかを確認していただきたいところです。
地主が譲らないときに残っている選択肢
条件が折り合わない場合でも、道が閉じたわけではありません。
第一に、第三者への譲渡です。借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾が得られないときは、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める申立てができます(借地借家法第19条第1項)。ただしこの申立てがあると、地主の側から「自分が建物と借地権を譲り受ける」と申し立てることも認められています(同条第3項)。時間も費用もかかる手続きですので、その前段階で条件を整理できないかを探るのが現実的です。
第二に、借地権付き建物のまま買い取る業者に相談することです。私たちのような買取業者が入る場合、地主との承諾交渉や名義の整理を含めて引き受けることになります。仲介と違って買主を探す期間が不要なため、返還期限が迫っている場面では選ばれやすい方法です。関連する整理は借地権付き建物を相続したら?地主交渉・売却・買取の3択比較にまとめています。
相続で取得した借地で、まだ名義の変更が済んでいない場合は、相続登記の義務化への完全対応ガイドも併せてご確認ください。名義が亡くなった方のままだと、返還の合意そのものが進みません。
よくあるご質問
期間満了かどうかがわからない場合はどうすればいいですか?
契約書が見つからなくても、建物の登記事項証明書に記載された新築の年や、地代の支払い履歴から契約の開始時期を推定できることがあります。地主に対しては「契約の内容を確認したい」と伝えるだけで構いません。返すかどうかの回答は、確認が終わってからで問題ありません。
すでに「更地にして返します」と伝えてしまいました。取り消せますか?
口頭のやりとりであれば、まだ条件が固まっていない段階のことも多くあります。解体の発注前であれば、いったん止めて条件を整理し直す余地があります。まずは解体業者への発注を保留してください。
建物が古すぎて価値がなさそうですが、それでも相談する意味はありますか?
あります。建物の評価が低くても、借地権としての評価が残っている場合があるためです。建物の価値と借地権の価値は別の話です。
兄弟で相続した借地です。全員の同意が必要ですか?
借地権を全体として手放す場合は、共有者全員の関与が必要になります。話がまとまらない段階でも、金額の見当がついてから協議したほうが進みやすいというのが実感です。詳しくはアパートを兄弟で相続したら?共有名義の3つの危険をご覧ください。
大阪市外の借地でも相談できますか?
大阪を中心に、兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山の物件のご相談に対応しています。買取の可否・条件は所在地と物件の状況を確認してご案内します。上記の対応地域外の物件は買取・査定の対象外です。物件が対応地域内であれば、所有者が遠方にお住まいでも相談できます。
まとめ
- 借地の返還で最初に決めるのは「契約がどう終わるのか」です。期間満了で更新がないときは、建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法第13条第1項)
- その規定に反する借地権者に不利な特約は無効です(同法第16条)。契約書の「更地返還」の一文だけで結論は決まりません
- 解体は最後の工程です。先に解体すると建物の価値はゼロになり、条件を戻せなくなります
無料でご相談・査定を承ります
「地主さんから更地にして返してほしいと言われている」「契約書が見当たらない」という段階で構いません。今わかっている範囲をお聞かせいただければ、次に確認すべきことをお伝えします。
査定後のご契約は任意です。査定・ご相談だけで終わっても、費用は一切かかりません。
大阪市24区を中心に対応・仲介手数料ゼロ・現況のまま買取。解体前のご相談を歓迎しています。
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出典: 借地借家法(e-Gov法令検索・2026年8月18日確認)/不動産登記法(同)/国税庁タックスアンサーNo.1440・No.3202・No.3258(2026年8月18日確認)。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約内容によって結論は変わります。税務の取扱いは税務署または税理士に、訴訟・非訟手続については弁護士にご確認ください。
画像: 「Ikeda House, Sumiyoshi」(Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)/「Demolition work in japan」by melvil (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)/「Akiya in Tabuse 2026」by Kuroshio no Neko (Wikimedia Commons, CC BY 4.0)
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