空き家のミカタ

相続アパートは入居者付きのまま売れる|オーナーチェンジで引き継がれるもの一覧【2026年版】

空き家のミカタ編集部|宅地建物取引業者(大阪府知事(1)第65646号)

Q: 入居者が住んでいる相続アパートは、そのまま売れますか? A: 売れます。賃貸人の地位ごと買主に引き継ぐ「オーナーチェンジ」であれば、立退き交渉も入居者の同意も必要ありません。ただし敷金の返還義務は買主へ移り、売却前の滞納家賃は売主に残ります。この線引きを決済前に確定させることが失敗を防ぐ要点です。

結論(3行):
入居者がいても、賃貸借契約ごと引き継ぐ形で売却できます。
敷金の返還義務は買主へ、売却前の滞納家賃の回収権は売主に残ります。
保証会社の契約は自動で移らないため、決済の1か月前から手続きが必要です。

「親のアパートを相続したけれど、入居者がいるから売れないと思っていた」というご相談を、大阪市内の物件で毎月いただきます。実際には、入居者に出ていってもらう必要はありません。問題になるのは売れるかどうかではなく、何が買主に移り、何が自分に残るのかという承継の線引きです。

ここを曖昧にしたまま決済すると、引き渡し後に敷金や滞納家賃の負担をめぐって買主と揉めます。この記事では、入居者付きアパートを引き継ぐときの実務を、条文と決済時の精算項目に沿って順に整理します。

入居者が住んでいる賃貸アパートの外観 相続後もオーナーチェンジで売却できる

入居者付きの相続アパートは、立退き交渉をしなくてもそのまま売れる

賃貸中の建物を売ると、賃貸人の地位は当然に買主へ移ります(民法第605条の2第1項)。入居者の承諾は要りません。賃貸借契約を結び直す必要もなく、家賃も敷金も契約条件はそのまま続きます。

これが「オーナーチェンジ」と呼ばれる売り方です。収益物件として買う相手にとっては、入居者がいることが前提になります。空室にする作業は不要です。

立退きを選ぶと、時間とお金が両方かかります

立退きを求める場合、貸主側からの解約には借地借家法第28条の「正当事由」が必要です。実務上の目安は次のとおりです。

項目立退き後に売る入居者付きのまま売る
入居者への立退料1戸あたり家賃6か月分が目安0円
期間6か月〜1年以上最短2〜4週間
空室期間の家賃交渉中から引き渡しまで減収家賃収入は継続
交渉の代理代理できるのは弁護士のみ(弁護士法第72条)交渉そのものが不要

家賃6万円の部屋が4戸あれば、立退料だけで144万円前後になります。売却価格の差がこれを上回らないなら、そのまま売った方が手残りは多くなります。立退きとの比較は「入居者がいるアパートの売却方法|立退き交渉とオーナーチェンジ買取を徹底比較」で金額シミュレーションを載せています。

オーナーチェンジで「引き継がれるもの」と「売主に残るもの」

もっとも誤解が多いのがこの線引きです。同じ賃貸借にまつわる権利義務でも、移るものと残るものが分かれます。

項目決済後の帰属根拠・実務上の扱い
賃貸借契約そのもの買主に移る民法第605条の2第1項。入居者の承諾不要
敷金の返還義務買主に移る民法第605条の2第4項。現金は決済で精算
必要費・有益費の償還義務買主に移る民法第605条の2第4項(第608条の費用償還)
売却前に発生した滞納家賃売主に残る自動では移らない。移すなら債権譲渡が必要
決済日以降の家賃買主が受け取る決済日基準で日割り精算
退去時の原状回復請求権買主に移る退去時点の賃貸人が当事者になる
家賃保証会社との保証契約自動では移らない保証会社ごとの変更手続きが必要
管理会社との管理委託契約自動では移らない解約または承継の合意が必要

表の右側3行が、決済間際に手続き漏れを起こしやすい部分です。順に見ていきます。

敷金の返還義務は買主に移る。滞納があれば充当後の残額だけが移る

2020年4月施行の改正民法で、賃貸人の地位が移ったときは敷金の返還債務も譲受人が承継することが条文に明記されました(民法第605条の2第4項)。所有者としての資力がある新オーナーが返す方が、入居者の保護になるという考え方です。

ここで注意点が2つあります。

1つ目は、現金が自動で移るわけではないことです。敷金の預り金は売主の手元にあります。義務だけが買主に移るため、決済時に敷金相当額を売買代金から差し引いて買主に引き渡す精算をします。この精算を忘れると、買主が自腹で返還する形になり、後から請求されます。

2つ目は、滞納があるときの計算です。最高裁昭和44年7月17日判決は、旧オーナーの時代に発生した延滞賃料などに敷金が当然に充当され、その残額についてだけ返還義務が新オーナーへ移るとしています。

  • 敷金12万円・滞納家賃8万円の入居者がいる場合
  • 敷金は滞納分8万円に充当される
  • 買主に引き継がれる敷金返還義務は残額の4万円
  • 決済時に買主へ渡す敷金相当額も4万円

計算の前提が変わるため、滞納額の確定を決済前に済ませておく必要があります。滞納が長期化しているケースの扱いは「家賃滞納している入居者がいるアパートは売れる?買取・売却の方法」で詳しくまとめています。

賃貸借契約書と敷金預り一覧を確認する場面 オーナーチェンジ前に承継内容を確定させる

売却前の滞納家賃は売主に残る。回収するなら債権譲渡か価格調整

売却前に発生していた家賃の未払いは、売主が持つ債権のまま残ります。買主が引き継いで取り立ててくれるわけではありません。買主に回収を任せるには、別途「債権譲渡」の手続き(譲渡契約と入居者への通知)が必要です。

実務では次の3つの処理に分かれます。

  1. 売買価格に織り込む:回収見込みの低い滞納額を売買価格から差し引いて、精算を終わらせる。手続きがもっとも簡単です
  2. 債権譲渡する:滞納債権を買主に譲り、回収も任せる。譲渡通知が必要になります
  3. 売主が引き続き請求する:決済後も元オーナーとして督促を続ける。入居者との関係が続くため負担は残ります

現場からのひとこと: 過去の買取事例では、滞納2か月の入居者がいる4戸のアパートで、滞納分を価格から差し引く形で決済を終えました。「回収を追いかけない」と決めた方が、結果として早く手放せています。相続で引き継いだ滞納を自分で取り立てるのは、時間も気持ちも消耗します。

賃貸人が変わったことは、登記をしないと入居者に主張できない

決済後の通知は「礼儀」ではなく実務上の必須手続きです。民法第605条の2第3項は、所有権移転登記をしなければ、新オーナーは賃貸人の地位を入居者に対抗できないと定めています。登記が済んでいなければ、入居者は新オーナーへの家賃支払いを拒めます。

そのため、決済・登記申請・通知の3つを同じ日に動かします。

賃貸人変更通知に入れる6項目

書式は法定されていませんが、実務では次の項目を1枚にまとめます。

  1. 賃貸人(オーナー)が変わった事実と、変更日
  2. 新しい賃貸人の名称・所在地・連絡先
  3. 管理会社が変わる場合は新しい管理会社と連絡先
  4. 家賃の新しい振込先と、切り替わる支払月
  5. 賃貸借契約の内容(家賃・敷金・契約期間)は変更しない旨
  6. 敷金の返還義務も新賃貸人が引き継ぐ旨

とくに4番の「どの月分から新口座か」を書き漏らすと、二重払いや未入金の問い合わせが集中します。旧口座は3か月程度は閉じずに残しておくと安全です。

家賃保証会社の契約は自動では引き継がれない

入居者が加入している家賃債務保証(連帯保証人の代わりに保証会社が付く仕組み)は、物件の売買だけでは新オーナーに移りません。保証委託契約は入居者と保証会社の間の契約で、賃貸人が受取人として登録されているだけです。

大手の保証会社は賃貸人変更の専用書式を用意しており、届出だけで継続できる場合があります。一方、契約を引き継げず、入居者に新しい保証会社と再契約してもらう必要がある会社もあります。再契約には入居者の負担(保証料)が発生するため、進め方に配慮が必要です。

手続きの所要期間は2週間〜1か月程度が一般的です。決済日の1か月前には保証会社へ連絡しておくと、保証が空白になる期間を作らずに済みます。

保証会社の対応が読めない場合は、査定の段階で「保証会社はどこか」「引継ぎ実績があるか」を買主側に確認しておくと安全です。訳あり物件の買取に慣れた業者であれば、主要な保証会社の変更手続きを実務として通しています。

退去時の原状回復義務は「退去時のオーナー」に帰属する

入居者の原状回復義務は民法第621条に定められています。通常の使用による損耗(通常損耗)と経年変化は入居者の負担から外れ、故意・過失による損傷が負担範囲になります。判断基準は国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版・平成23年8月)」が実務の標準です。

ここで問題になるのが、入居期間の途中でオーナーが変わった場合です。

  • 原状回復を請求できるのは、退去した時点の賃貸人、つまり買主です
  • 前オーナーの時代に生じた損傷も、請求権は退去時の賃貸人が行使します
  • 敷金からの充当も、退去時に返還義務を負う買主の側で処理されます

つまり、売主にとっては退去時の原状回復トラブルから解放されるという意味を持ちます。築古アパートでは、退去1件あたりの原状回復費が10〜30万円になることも珍しくありません。持ち続ければ自分の負担、売却すれば買主の負担です。

ただし、契約書に古い原状回復特約(ハウスクリーニング代の全額負担など)が入っている場合は、その有効性が争点になり得ます。特約の内容は買主への告知事項です。詳しくは「相続アパートの原状回復トラブル|退去費用の負担基準と現況買取で解決する方法」をご覧ください。

決済日の鍵の引き渡しイメージ 家賃日割り・敷金・固定資産税の精算をこの日に行う

決済日にやる精算は4項目

オーナーチェンジの決済は、通常の売買より精算項目が増えます。決済日を境に日割りで分けるのが原則です。

精算項目計算の考え方精算の方向
当月分の家賃・共益費決済日の前日までが売主、当日以降が買主売主が受領済みなら買主へ返す
敷金・保証金滞納充当後の残額売主から買主へ引き渡す
前受け家賃・前受け更新料対象期間が決済日以降の分売主から買主へ引き渡す
固定資産税・都市計画税起算日(関西では4月1日が慣行)で日割り買主が売主へ負担分を支払う

家賃6万円の部屋で決済日が15日なら、当月家賃のうち約半分が買主の取り分です。戸数が多いほど計算が細かくなるため、レントロール(入居者一覧表)を最新の入金状況で作り直すことが精算の前提になります。

大阪市の入居者付き相続アパートを手放すまでの流れ

  1. 書類を集める:賃貸借契約書・敷金預り一覧・直近12か月の入金明細・保証会社の契約書・管理委託契約書
  2. 相続登記を済ませる:2024年4月1日から義務化。相続を知った日から3年以内。期限を過ぎると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法第76条の2)
  3. 入居者付きの現況で査定を受ける:立退き後に売る場合との手残り比較を数字で出してもらう
  4. 決済・登記・通知を同日に動かす:精算4項目を確定させ、賃貸人変更通知を発送。保証会社と管理会社へ変更届を提出

大阪市内であれば、書類が揃っている状態から最短2〜4週間で現金化できるケースがあります。相続人が複数で共有になっている場合は、売却に共有者全員の同意が必要です。手順は「アパートを兄弟で相続したら?共有名義の3つの危険と、もめずに手放す方法」で整理しています。

相続アパートの売却相談の場面 入居者付きのままの査定を依頼できる

よくある質問

Q: 入居者に売却の予定を事前に知らせる義務はありますか?

A: 売却活動中に知らせる法的な義務はありません。賃貸借の条件が変わらないため、通知は売買契約の成立後で足ります。ただし、内見や現地調査で入居者と接する場面があるため、管理会社経由で段取りを組んでおくと余計な不安を与えずに済みます。

Q: 契約書が見つかりません。それでも売れますか?

A: 売却は可能です。管理会社が保管しているケースが多いため、まずレントロールと契約書の写しを請求してください。管理会社を使っていない自主管理の場合は、家賃の入金履歴(通帳)と入居者への確認で契約内容を再構成します。書類不足そのものを理由に買取を断られることは、訳あり物件専門の業者では通常ありません。

Q: 相続登記が終わっていません。査定だけでも受けられますか?

A: 査定とご相談は登記前でも可能です。ただし売買契約までには相続人名義への登記を完了させる必要があります。オーナーチェンジでは所有権移転登記が賃貸人の地位の対抗要件になるため(民法第605条の2第3項)、登記の段取りは特に重要です。提携の司法書士をご紹介できます。

Q: 一部が空室でも入居者付きとして売れますか?

A: 売れます。満室であることは条件ではありません。空室が多いと収益評価は下がりますが、リフォームや募集をしてから売るより、現況のまま渡す方が総額で有利になる場合があります。稼働率別の比較は査定時にお出しします。

Q: サブリース(一括借上げ)契約が付いている場合は違いますか?

A: 扱いが変わります。サブリースでは相手が入居者ではなくサブリース業者になり、契約書に「貸主の地位の移転には業者の承諾を要する」と定められていることがあります。手順は「相続したアパートにサブリース(家賃保証)契約がついていたらどうする?」をご覧ください。

まとめ

入居者付きの相続アパートは、立退き交渉をしなくても売却できます。押さえる点は3つです。

  1. 敷金の返還義務は買主へ移る(民法第605条の2第4項)。滞納があれば充当後の残額だけが移り、現金は決済で精算します
  2. 売却前の滞納家賃は売主に残る。価格に織り込むか、債権譲渡するかを決めておきます
  3. 登記・通知・保証会社の手続きはセットで動かす。登記が済むまで新オーナーは賃貸人の地位を主張できません

「入居者がいるから売れない」と思って持ち続けている間も、固定資産税と修繕費は毎年出ていきます。まずは入居者付きの現況で、いくらになるのかを確認することから始めていただければと思います。


入居者付き相続アパート、当てはまるものはありますか
  • 入居者がいるので売れないと思っている
  • 敷金がいくら残っているのか把握できていない
  • 家賃の滞納がある入居者がいる
  • 管理会社や保証会社との関係を整理できていない
  • 相続登記がまだ終わっていない

1つでも当てはまれば、現況のままの無料査定でご相談ください。相続アパート全体の進め方は相続アパートを手放したい方へ|売却の流れ・税金・失敗しない判断基準で確認できます。

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