相続した不動産を売るなら必ず確認|取得費加算の特例で譲渡税が大幅減【2026年版】
親から不動産を相続して、相続税を払った。次は売却しようと思ったら「また税金がかかる?」と思った方へ——実は、払った相続税の一部を売却益の計算に組み込んで、譲渡所得税を大幅に下げられる制度があります。
それが取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)です。
ただし、使えるのは相続開始からおよそ3年10ヶ月以内に売却した場合だけ。「そんな特例があったとは知らなかった」と申告期限を過ぎてしまう方が後を絶ちません。
この記事では、取得費加算の特例の基本から計算方法、3,000万円特別控除との選択まで、相続不動産の売却でよく出る疑問にわかりやすく答えます。
目次
- 取得費加算の特例とは?基本をわかりやすく解説
- 取得費加算の計算式|いくら節税できるか具体例で確認
- 使える条件と3年10ヶ月の期限
- 3,000万円特別控除(相続空き家特例)との選択
- 被相続人の取得費がわからない場合の対応
- 訳あり物件・売れにくい不動産でも使える?
- よくあるご質問
取得費加算の特例とは?基本をわかりやすく解説
取得費加算の特例とは、相続で取得した財産(不動産など)を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を「取得費」に加算して、譲渡所得税を計算できる制度です(租税特別措置法第39条)。
不動産を売却したときの税金は、次の計算式で決まります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売却価格 | 実際に売れた金額 |
| − 取得費 | 購入した価格(相続の場合は被相続人が購入した価格) |
| − 売却費用 | 仲介手数料・測量費など |
| = 譲渡所得 | 税金がかかる「利益」 |
| × 税率 | 長期(5年超):20.315%、短期(5年以内):39.63% |
取得費が小さければ小さいほど「譲渡所得(利益)」が大きくなり、税金も増えます。
取得費加算の特例は、支払った相続税の一部を取得費に上乗せすることで、この「利益」を圧縮し、税金を減らす仕組みです。
ポイント:相続で取得した不動産は、被相続人(亡くなった方)が購入した価格(多くは数十年前の低い価格)を引き継ぎます。古い物件ほど取得費が低く、売却益が大きく出やすいため、取得費加算の節税効果が高くなる傾向があります。
取得費加算の特例が使えるケース
- 相続または遺贈で財産を取得した個人
- その財産の取得に対して相続税が課された(支払った)こと
- 相続税の申告期限から3年以内に売却すること(詳細は後述)
相続税がゼロだった方(基礎控除内に収まった方)は、この特例は使えません。
取得費加算の計算式|いくら節税できるか具体例で確認
取得費に加算できる金額の計算式
取得費加算額 = 支払った相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 ÷ 相続税の課税価格の合計額)
複数の財産を相続した場合、「売却した財産だけに対応する相続税分」のみを加算できます。
具体的な計算例
前提条件
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続財産の内訳 | 不動産(評価額3,000万円)+ 現金500万円 + その他500万円 |
| 課税価格の合計 | 4,000万円(基礎控除後) |
| 支払った相続税 | 400万円 |
| 不動産の売却価格 | 3,500万円 |
| 不動産の取得費(被相続人の購入価格) | 500万円 |
| 売却費用(仲介手数料等) | 120万円 |
計算の流れ
① 取得費に加算できる相続税額
400万円 × (3,000万円 ÷ 4,000万円)= 300万円
② 加算後の取得費
500万円(元の取得費)+ 300万円(加算分)= 800万円
③ 譲渡所得の比較(加算あり vs なし)
| 項目 | 取得費加算あり | 取得費加算なし |
|---|---|---|
| 売却価格 | 3,500万円 | 3,500万円 |
| 取得費 | 800万円 | 500万円 |
| 売却費用 | 120万円 | 120万円 |
| 譲渡所得 | 2,580万円 | 2,880万円 |
| 税額(長期20.315%) | 約524万円 | 約585万円 |
| 節税効果 | 約61万円の節税 | ― |
このケースでは、取得費加算の特例を使うことで約61万円の節税になります。相続税が多ければ多いほど、また相続した財産に占める不動産の割合が大きいほど、節税効果も大きくなります。
注意:長期譲渡所得の適用(保有5年超)かどうかは、被相続人の取得日から計算します。親が長年保有していた不動産であれば、相続した日ではなく親が購入した日から起算します。
使える条件と3年10ヶ月の期限
取得費加算の特例には時間的な期限があります。これを知らずに期限切れになるケースが非常に多いです。
適用期限の正確な読み方
租税特別措置法第39条では、「相続の開始があった日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すること」と定められています。
相続開始日 → 10ヶ月(申告期限)→ さらに3年 = 合計3年10ヶ月以内に売却すること
| タイムライン | 期間 |
|---|---|
| 相続開始〜申告期限 | 10ヶ月 |
| 申告期限〜特例の最終期限 | 3年 |
| 相続開始〜売却の最終期限 | 約3年10ヶ月 |
チェックリスト:使える条件まとめ
- ✅ 相続または遺贈で財産を取得した
- ✅ 取得した財産に対して相続税が課された(相続税を支払っている)
- ✅ 相続開始から3年10ヶ月以内に売却する(または代金を受け取る)
- ✅ 確定申告で特例の適用を申請する(自動適用ではない)
確定申告の手続きが必須です。相続税の申告だけでは適用されません。売却した翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)で申請する必要があります。
実務では:相続が発生してから不動産の名義変更(相続登記)や遺産分割協議に時間がかかり、「いつの間にか3年10ヶ月が過ぎていた」というケースがあります。2024年4月から相続登記が義務化され手続きが早まる傾向はありますが、早めに税理士と相談することをお勧めします。
3,000万円特別控除(相続空き家特例)との選択
相続した空き家を売却する際によく出てくるのが、3,000万円特別控除(相続空き家特例、措置法35条3項)との比較です。
3,000万円特別控除(相続空き家特例)とは?
相続後に空き家になった実家などを売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です(2027年12月31日まで延長済み)。
主な適用条件:
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)であること
- 相続後も空き家のまま維持し、売却すること(入居者・賃貸利用がない)
- 売却価格が1億円以下
- 家屋を耐震リフォームするか、売却時に更地にして引き渡すこと
取得費加算の特例との比較・選択のポイント
| 項目 | 取得費加算(措法39条) | 3,000万円特別控除(措法35条3項) |
|---|---|---|
| 主な適用条件 | 相続税を払ったこと | 空き家・旧耐震・1億円以下等 |
| 節税の仕組み | 取得費を増やして譲渡所得を圧縮 | 譲渡所得から一定額を直接控除 |
| 同一財産への併用 | ❌ 不可 | ❌ 不可 |
| 適用期限 | 相続から3年10ヶ月以内 | 相続から3年以内(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで) |
原則として、同一の財産に対して両方は使えません。どちらを選ぶかは、条件を満たしているか・節税額がどちらが大きいかによります。
3,000万円特別控除が有利になりやすいケース:
- 相続税が少なかった(取得費加算の額が小さい)
- 売却価格が高く、譲渡益が大きい
- 旧耐震の空き家で、空き家特例の条件をすべて満たしている
取得費加算の特例が有利になりやすいケース:
- 相続税が多かった(取得費加算額が大きい)
- 1982年(昭和57年)以降に建築された物件(旧耐震基準を満たさず、空き家特例の対象外)
- 相続後に賃貸に出したことがある(「空き家のまま」という要件を満たさない)
どちらが有利かは、ケースによって大きく異なります。必ず税理士にシミュレーションを依頼し、確定申告前に判断することをお勧めします。
被相続人の取得費がわからない場合の対応
相続した不動産が親が数十年前に購入したもので、売買契約書などの書類がないケースは多くあります。
その場合、取得費は売却価格の5%(概算取得費)として計算します(所得税法施行令第118条)。
概算取得費 = 売却価格 × 5%
例:3,500万円で売却した場合、取得費は175万円として計算します。
取得費加算の額は、この175万円に加算する形で計算できます。
取得費(合計)= 175万円(概算5%)+ 300万円(取得費加算)= 475万円
古い物件ほど「5%しか使えない」ケースが多いのですが、取得費加算を組み合わせることで節税効果を高めることができます。特に相続税が多額だった場合は、書類の有無にかかわらず取得費加算の活用を検討してみてください。
訳あり物件・売れにくい不動産でも使える?
取得費加算の特例は、物件の種類を問いません。再建築不可の土地、旧耐震のアパート、共有持分の不動産、事故物件でも、要件(相続税の支払い・期限内の売却)を満たせば適用できます。
ただし、期限(3年10ヶ月)が問題になりやすいのが訳あり物件です。
訳あり物件で期限を意識すべき理由
一般の仲介では「買主が見つかるまでに1〜2年かかる」「値下げを繰り返してもなかなか売れない」というケースが多く、気づけば期限ぎりぎり、または期限切れになっていることがあります。
訳あり物件を抱えている場合は:
- 早めに買取専門業者へ相談する(最短2〜4週間で売却完了のケースあり)
- 取得費加算の期限を税理士と確認する
- 「今売るか、様子を見るか」ではなく、「期限内に売れる方法を早めに探す」姿勢で動く
訳あり物件の買取の流れについても、あわせてご確認ください。
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よくあるご質問
Q. 取得費加算の特例を使う場合、確定申告はどうすればいいですか?
売却した翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)で、租税特別措置法第39条の適用を受ける旨を記載し、相続税の申告書の写しなどを添付して提出します。自動的に適用されるわけではなく、確定申告での手続きが必須です。
Q. 相続して名義変更(相続登記)前に売却した場合でも使えますか?
使えます。相続登記が完了していなくても、相続によって実質的に財産を取得していれば特例の対象になります。ただし、売却手続き上の問題(名義が旧所有者のまま)が生じることがあるため、司法書士への相談を事前に行うことをお勧めします。
Q. 複数の相続人で不動産を共有して相続した場合はどうなりますか?
共有で相続した不動産を売却する場合、各相続人が自分の持分に対応する相続税の取得費加算をそれぞれ適用できます。相続人ごとに支払った相続税額が異なるため、計算は個別に行います。
Q. 相続税を物納した財産も対象になりますか?
物納した財産は対象外です。物納は相続税の支払いを現金ではなく財産で行う方法ですが、物納した財産については取得費加算の特例は適用されません。
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