相続不動産の譲渡所得税|5年の起算日と取得費不明の対処【2026年版】
「相続してまだ2年しか経っていないから、短期で税率が40%近くになる」——このご相談を、私たちは毎年お受けします。そして、そのほとんどが数え方の勘違いです。
この記事では、相続不動産の譲渡所得税でつまずきやすい2点——5年判定の起算日と取得費がわからないときの対処——を、根拠条文と具体的な数字で整理します。
所有期間5年の起算日は「被相続人が買った日」です
国税庁は、相続や贈与によって取得した土地建物について「被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま取得した相続人や受贈者に引き継がれます」と示しています(No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期)。根拠は所得税法60条1項です。
つまり、相続で名義が変わっても所有期間のカウントは途切れません。取得費も同じく被相続人が買ったときの購入代金を引き継ぎます。
判定日は「売った日」ではなく「譲渡した年の1月1日」
もう1つ、間違えやすいのが判定のタイミングです。国税庁No.3202は、長期譲渡所得を「譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの」、短期譲渡所得を「譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のもの」と定めています。
売った日ではありません。その年の1月1日まで巻き戻して数えます。この差は、実際には次のように効いてきます。
| 取得の日 | 売却の日 | 実際の保有年数 | 1月1日時点の所有期間 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年6月 | 2026年8月 | 5年2か月 | 4年7か月 | 短期(39.63%) |
| 2020年6月 | 2026年8月 | 6年2か月 | 5年7か月 | 長期(20.315%) |
| 1998年3月(父が購入) | 2026年8月 | 28年5か月 | 27年10か月 | 長期(20.315%) |
実際には5年を超えて持っていても、1月1日時点で5年以下なら短期です。売り急いで年内に決済すると短期になり、年明けまで待てば長期になる——そういう境目に立つ物件があります。
税率は20.315%と39.63%。差は約2倍です
| 区分 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得(5年超) | 15% | 所得税額の2.1% | 5% | 20.315% |
| 短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 所得税額の2.1% | 9% | 39.63% |
(国税庁No.3208・No.3211。復興特別所得税は2013年分から2037年分まで)
売却代金3,000万円、取得費が不明で概算取得費150万円(5%)、譲渡費用ゼロと仮定すると、譲渡所得は2,850万円です。
- 短期と誤って計算した場合:2,850万円 × 39.63% = 約1,129万円
- 正しく長期で計算した場合:2,850万円 × 20.315% = 約579万円
差は約550万円です。同じ売却でも、起算日の数え方ひとつで手元に残る金額がここまで変わります。
期間が引き継がれない例外もあります
原則には例外があります。限定承認による相続の場合、被相続人から相続人へ時価で譲渡があったものとみなされるため(所得税法59条1項1号)、取得日と取得費の引き継ぎは行われません。国税庁も、相続により取得した株式等の取得費について「限定承認に係るものを除く」と明記しています(No.1464)。
また相続時精算課税による贈与や、交換・買換えの特例を使って取得した資産も、取扱いが通常と異なります。限定承認をされた方、生前に特例を使って取得された物件がある方は、必ず税理士にご確認ください。
「取得の日」「譲渡の日」は引渡日が原則、契約日も選べます
所得税基本通達33-9は資産の取得の日を、同36-12は譲渡による収入すべき時期を定めており、いずれも引渡しがあった日が原則で、納税者の選択により売買契約の効力発生の日によることも認められています。
年末年始をまたぐ売却で長期・短期の境目に立っている場合、この選択が結論を変えることがあります。ただし有利不利の判断は個別事情によりますので、決済日を決める前に税理士へご相談ください。
取得費がわからないと、税額はここまで膨らみます
譲渡所得は「売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します。取得費が小さいほど、課税される所得は大きくなります。
国税庁No.3258は、「売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます」としています(租税特別措置法31条の4、措通31の4-1)。
これが概算取得費です。3,000万円で売れば取得費は150万円。実際には父が2,000万円で買っていたとしても、それを示す資料がなければ150万円として扱われます。
| 取得費 | 譲渡所得(売却3,000万円・譲渡費用ゼロ) | 長期の税額(20.315%) |
|---|---|---|
| 実額2,000万円が証明できた | 1,000万円 | 約203万円 |
| 実額1,000万円が証明できた | 2,000万円 | 約406万円 |
| 証明できず概算5%(150万円) | 2,850万円 | 約579万円 |
書類が1枚あるかないかで、数百万円が動きます。取得費の資料探しは、節税対策の中でもっとも費用対効果の高い作業だと私たちは考えています。
建物部分は減価償却費相当額を差し引きます
購入時の契約書が見つかった場合でも、建物の取得費はそのままの金額ではありません。国税庁No.3261は、建物の取得費について「建物の購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要があります」としています。
非業務用(自宅や空き家)の場合の計算式は次のとおりです。
建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 = 減価償却費相当額
償却率は、建物の耐用年数の1.5倍の年数(1年未満切り捨て)に対応する旧定額法の償却率を使います。木造は0.031、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造は0.015です。
築40年の木造家屋を建物1,000万円で買っていた場合、1,000万円 × 0.9 × 0.031 × 40年 = 1,116万円と計算されます。ただし減価償却費相当額は建物の取得価額の95%が限度とされているため、差し引ける額は950万円まで。建物の取得費として残るのは50万円です。古い家では、土地の取得費が証明できるかどうかが勝負になります。
捨てる前に探す、6つの場所
売買契約書そのものがなくても、購入代金を裏づける資料はほかにもあります。私たちが実際にお客様と一緒に探して見つかったことのある場所を、見つかりやすい順に挙げます。
- 購入時の領収書一式——売買代金の領収書だけでなく、仲介手数料・登記費用・不動産取得税の領収書も取得費に含められます
- 住宅ローンの金銭消費貸借契約書・返済予定表——借入額から購入価格を推し量る材料になります
- 登記事項証明書の乙区に残る抵当権設定の債権額——完済して抹消されていても、閉鎖登記簿に記録が残っていることがあります
- 通帳・振込控え——購入時期の大きな出金は有力な資料です
- 分譲時のパンフレット・価格表・広告チラシ——同じ分譲地の当時の価格がわかります
- 売主だった分譲会社・仲介会社への照会——会社が現存していれば売買契約書の写しが保管されている場合があります
探す場所は、仏壇の引き出し、押入れの奥の茶箱、金庫、貸金庫、そして権利証と一緒に保管された封筒です。解体や遺品整理を発注する前が最後の機会だとお考えください。書類は一度捨てると戻りません。片付けの順番については片付けないでご相談ください|実家7つの状態別・手残り比較でも触れています。
「市街地価格指数で推計する方法」について
インターネットで調べると、日本不動産研究所の市街地価格指数を使って購入当時の価格を推計する方法が紹介されていることがあります。過去に国税不服審判所で認められた裁決例があるのは事実です。
ただし、これは法令で定められた計算方法ではありません。近年は合理性がないとして否認された事例も報告されており、購入価格の手がかりが一切ないこと、売買の相手方が純然たる第三者であること、対象地の地価が指数と同じ推移をしていることなど、条件がそろわなければ通りません。
私たちは宅地建物取引業者であり、税務の代理はできません。この方法を検討される場合は、必ず税理士に依頼し、否認されたときの追徴リスクまで含めて判断してください。安易に採用することはおすすめしません。
実額が見つからなくても、確認すべき特例が2つあります
取得費が5%になってしまう場合でも、まだ打ち手があります。
① 取得費加算の特例(相続税を納めた方)
相続税を納めた方が、相続開始の翌日から相続税の申告期限(10か月)の翌日以後3年を経過する日まで——つまりおよそ3年10か月以内——に売却した場合、納めた相続税のうち売却した不動産に対応する部分を取得費に加算できます(租税特別措置法39条、国税庁No.3267)。
概算取得費150万円に、この加算額が上乗せされる形です。計算方法と具体例は相続した不動産を売るなら必ず確認|取得費加算の特例で譲渡税が大幅減にまとめています。相続税がゼロだった方は使えません。
② 被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除
被相続人が一人で住んでいた家を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(租税特別措置法35条3項、国税庁No.3306)。主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡の時期 | 2016年4月1日から2027年12月31日までの譲渡 |
| 売却期限 | 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 譲渡対価 | 1億円以下 |
| 建物の要件 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと |
| 控除額 | 最高3,000万円(2024年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は2,000万円) |
分譲マンションは区分所有建物登記がされているため、この特例の対象になりません。ここは誤解の多い部分です。マンションを相続された方は相続したマンションの売却もあわせてご覧ください。
なお、同一の資産について取得費加算の特例とこの3,000万円特別控除を重ねて使うことは原則できません。どちらが有利かは税理士とご相談ください。要件の詳細は相続空き家の3,000万円特別控除で解説しています。
訳あり物件では、期限と売却スピードが噛み合わないことがあります
ここまでは税制の話でしたが、私たちが現場で見ているのは「特例の期限は迫っているのに、物件が売れない」という状況です。
- 再建築不可・接道なしで、一般の買主が住宅ローンを組めない
- 未登記の増築部分があり、相続登記から手をつける必要がある
- 共有名義で、相続人の一人と連絡が取れない
- 残置物と庭木がそのままで、内覧に耐えない
仲介に出して買主を探している間に、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日を越えてしまうと、3,000万円特別控除は使えなくなります。控除の3,000万円は、買取価格と仲介価格の差より大きいことがあります。期限内に確実に決済できる買取と、期限を越えるかもしれない仲介を、金額だけで比べないほうがよい理由がここにあります。
相続登記が済んでいないと売却自体ができません。2024年4月1日から相続登記は義務化されています(相続登記の義務化と手続き)。期限から逆算すると、動き始める時期は思っているより早いとお考えください。売却全体の段取りは相続不動産の売却スケジュールにまとめています。
よくあるご質問
Q. 譲渡所得の申告はいつまでにすればよいですか。
売却した年の翌年2月16日から3月15日までの確定申告で申告・納付します。2026年中に売却したなら2027年の確定申告です。売却益が出ていなくても、特別控除を使う場合は申告が必要です。
Q. 売却して損が出た場合も申告は必要ですか。
相続した空き家の売却で損失が出た場合、その損失を給与所得などと通算することは原則できません。申告義務もありませんが、判断に迷う場合は税務署または税理士にご確認ください。
Q. 相続人が複数いて共有で売った場合、税金はどうなりますか。
各相続人がそれぞれの持分に応じて譲渡所得を計算し、個別に申告します。所有期間の判定も取得費の引き継ぎも、各人が被相続人から引き継ぐ形になります。
Q. 取得費の資料が一部だけ見つかった場合、実額と5%を組み合わせられますか。
概算取得費を使うと、その資産については購入代金も購入諸費用もまとめて売却代金の5%として扱われます。一部だけ実額を上乗せする形にはなりません。実額で申告するか概算で申告するかは、資産ごとの選択になります。具体的な適用は税理士にご確認ください。
Q. 御社は税金の相談にも乗ってもらえますか。
私たちは宅地建物取引業者ですので、税務の代理・個別の税額計算は行えません。売却の段取りや不動産の評価についてはお答えできますし、必要に応じて税理士をご紹介することもできます。
まとめ
- 相続した不動産の所有期間は被相続人が買った日から数えます(所得税法60条1項)。相続した日からではありません
- 5年超かどうかは譲渡した年の1月1日時点で判定します。実際に5年持っていても短期になることがあります
- 税率は長期20.315%/短期39.63%。約2倍の差です
- 購入時の契約書がないと取得費は売却代金の5%とみなされます。領収書・ローン契約書・抵当権の債権額・通帳・分譲パンフ・分譲会社への照会の順で探してください
- 解体や遺品整理の前が、書類を探す最後の機会です
- 実額が出なくても、取得費加算の特例(約3年10か月)と相続空き家の3,000万円特別控除(区分所有建物は対象外)を確認してください
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出典:国税庁タックスアンサー「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」「No.3258 取得費が分からないとき」「No.3261 建物の取得費の計算」「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」/所得税法59条・60条(e-Gov法令検索)/租税特別措置法31条の4・35条・39条(e-Gov法令検索)/所得税基本通達33-9・36-12。制度の内容は2026年8月時点のものです。税額の計算例は前提を単純化したものであり、実際の税額は個別事情により異なります。個別の判断は税理士にご確認ください。
画像クレジット: 冒頭「確定申告の季節の熊谷税務署」by Nori Norisa(CC BY 4.0)/本文「確定申告は お早めに」by Zengame(CC BY 2.0)。いずれもWikimedia Commonsより。図版は当社作成。