配偶者居住権が設定された不動産は売れない?問題と解決策を解説【2026年版】
配偶者居住権が登記された不動産は、所有者(子ども等)の意思だけでは売れません。解決策は①配偶者が居住権を放棄する(対価支払いで消滅)②配偶者・所有者が合意のうえ売却して代金を分配する③訳あり物件の買取専門業者に相談する——の3つです。「売れない」は手の打ちようがないわけではありません。
「親が亡くなり実家を相続したいが、配偶者居住権が設定されていて売れない」——そんな相談が増えています。2020年4月に施行された改正民法で新設された配偶者居住権は、遺された配偶者の生活を守る制度ですが、設定後の売却に大きな制約をもたらします。
この記事では、配偶者居住権が設定された不動産が売れない理由と、現実的な3つの解決策を整理します。

配偶者居住権とは(2020年4月施行)
配偶者居住権は、2020年4月1日施行の改正民法(民法第1028条〜第1041条)で新設された権利です。被相続人(亡くなった方)の配偶者が、被相続人が所有していた建物に終身または設定期間中、無償で住み続けられる権利です。
遺産分割協議・調停・審判・遺言によって設定され、登記することで第三者への対抗要件を備えます(民法第1031条)。
設定されるとどうなるか
配偶者居住権が設定・登記されると、不動産の権利が「居住権(配偶者)」と「所有権(子ども等)」に分離します。
| 権利 | 取得者 | 内容 |
|---|---|---|
| 配偶者居住権 | 配偶者 | 建物に住む権利(終身または設定期間) |
| 建物所有権 | 子ども等 | 建物を所有するが居住権の負担あり |
所有権を持つ子どもは「建物の形だけは所有している」状態になります。このとき建物は配偶者居住権付きの負担付き所有権であり、売却に制約が生じます。
また、配偶者居住権は譲渡不可です(民法第1032条第2項)。配偶者自身が他の人に居住権を売ったり、贈与したりすることはできません。
なぜ配偶者居住権が設定されると売れないのか
配偶者居住権が登記されると、その建物を購入した人も居住権の負担を引き継ぎます。つまり「買っても配偶者が住んでいる家」を買うことになり、通常の市場ではまず買い手が付きません。

さらに、所有者(子ども)は配偶者居住権者の「居住の平穏」を妨げてはならず(民法第1032条)、修繕・改変・転貸の際も居住権者の承諾が必要です。所有権はあっても、実質的には自由に動かせない状態です。
売れない理由まとめ
- 登記があると購入者も居住権を負担する:通常の買い手は現れない
- 所有権者だけでは合意書類を整えられない:配偶者の署名・実印が必要
- 建物価値が大幅に下がる:居住権付きでは活用できず市場価値が低い
配偶者居住権付き不動産の3つの解決策
解決策①:配偶者に居住権を放棄してもらう(最もシンプル)
配偶者が自ら居住権を放棄することで、居住権は消滅します。放棄後は通常の不動産として売却できます。
手順:
- 配偶者と合意し、放棄合意書(書面)を作成
- 司法書士に依頼して配偶者居住権の抹消登記を行う
- 抹消完了後、通常どおり売却
費用目安:
- 司法書士報酬:2〜5万円
- 登録免許税:建物1棟あたり1,000円
- 配偶者への対価(居住権の評価額相当)
放棄に際して配偶者への対価支払いは法律上の義務ではありませんが、家族関係の維持と公平性の観点から、通常は評価額相当の補償を行います。対価を無償にすると贈与税が発生するリスクもあります。
実務での注意点: 配偶者が認知症・判断能力の低下が見られる場合、単独で法律行為(放棄)ができません。この場合は家庭裁判所で成年後見人を選任し、後見人が代理することになります。後見人選任には数か月かかるため、早めに着手することが重要です。
解決策②:配偶者・所有者が合意のうえで売却する
配偶者(居住権者)と所有者(子ども等)の全員が合意すれば、居住権を消滅させずに不動産を売却することが可能です。
この場合の流れは次のとおりです:
- 配偶者・所有者が全員で売買契約に合意する
- 売却代金を「居住権評価額分(配偶者)」と「所有権評価額分(子ども等)」に分配する
- 決済時に配偶者居住権の抹消登記と所有権移転登記を同時に行う
売却代金の分配割合は、居住権の相続税評価額を参考に当事者間で決めることが一般的です。
解決策③:訳あり不動産の買取専門業者に相談する
居住権をめぐる家族間の合意が難しい場合や、早期解決が必要な場合は、訳あり不動産の買取専門業者に相談する方法があります。

買取専門業者は、法的手続きのサポートを含めてトータルで対応できることがあります。居住権が設定された状態でも、状況を整理したうえで買取できる場合があります。市場価格より低い金額になるケースが多いですが、「早く解決したい」「家族で話し合いがまとまらない」という状況では有効な選択肢です。
配偶者居住権の評価額の計算方法
放棄の対価や相続税申告の際に必要になる評価額は、国税庁の計算式を使います。
建物の配偶者居住権の評価額(簡略):
建物の評価額(固定資産税評価額)× 残存耐用年数に基づく複利現価率
÷ 建物の法定耐用年数(木造22年・RC造47年等)
例えば、木造建物・固定資産税評価額500万円・配偶者70歳(女性・平均余命約20年)の場合、評価額はおおむね100〜200万円台になることが多いです(築年数や構造により変動)。
正確な計算は税理士や司法書士に依頼することをお勧めします。
よくある失敗パターンと注意点
失敗1: 「相続登記を急いで子どもの名義にしたが、配偶者居住権の設定を忘れた」 配偶者居住権は、遺産分割前に設定を確定させる必要があります。相続登記を先行させてしまうと、後から居住権を設定しにくくなる場合があります。遺産分割協議では、居住権の設定と所有権者の確定を同時に検討しましょう。
失敗2: 「配偶者が高齢で認知症のため、放棄の合意ができない」 配偶者の判断能力が低下した後では、放棄の合意書に署名できません。後見人選任には時間がかかるため、売却の意向があれば早期に動くことが重要です。
失敗3: 「居住権を無視して売却手続きを進めようとした」 登記がある以上、居住権を無視した売却は法的に無効です。購入者もトラブルに巻き込まれます。必ず手続きを経て居住権を消滅させてから売却してください。
まとめ
- 配偶者居住権が登記された不動産は、所有者だけでは売れない(購入者も居住権の負担を引き継ぐため)
- 解決策は3つ:①配偶者が放棄(対価支払い+抹消登記)②全員合意で売却(代金分配)③訳あり買取業者に相談
- 配偶者が認知症の場合は成年後見人が必要:早めの着手が重要
- 放棄の対価は評価額を目安に:税理士・司法書士に相談を
「配偶者居住権があって売れないと言われた」という状況でも、手順を踏めば解決できます。状況を整理したうえで、まずご相談ください。
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