代償分割とは?相続で他の相続人に現金を渡す方法と5つのデメリット【2026年版】
結論:代償分割とは、相続人の1人が不動産をまるごと引き継ぎ、他の相続人には現金(代償金)を渡して精算する分け方です。家を物理的に切り分けずに済む反面、デメリットは5つあります。①代償金の原資を自分で用意するしかない、②「いくら渡すか」の金額でもめやすい、③分割払いにすると数年単位の火種が残る、④代わりに不動産を渡すと譲渡所得税が生じることがある、⑤遺産分割が成立した日から3年以内に登記の申請義務がある、という点です。残す理由がはっきりしている場合は有力ですが、誰も住まない空き家で選ぶと、負担が1人に集中して終わります。
「実家は自分が継ぐから、弟には現金を渡す」——遺産分割の話し合いで、この形はよく出てきます。これが代償分割です。
一見きれいにまとまる方法ですが、実際に動き出してから止まってしまうご相談を、大阪市内でも毎年いただきます。止まる理由はだいたい同じで、現金が用意できないか、金額に納得できないかのどちらかです。
この記事では、仕組みを短く整理したうえで、選ぶ前に知っておいていただきたいデメリットを5つに絞ってお伝えします。代償金の計算方法や遺産分割協議書への書き方は代償分割で相続した不動産を解決する方法にまとめていますので、あわせてご覧ください。
代償分割とは|他の相続人に現金を渡して精算する分け方
遺産に不動産が含まれるとき、分け方は大きく4つあります。
| 分け方 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を分筆するなどして現物のまま分ける | 広い土地で、分けても価値が落ちない場合 |
| 代償分割 | 1人が現物を取得し、他の相続人へ現金等を渡す | 住み続ける・貸し続ける理由がある場合 |
| 換価分割 | 売却して、代金を相続人で分ける | 誰も使わない・現金で公平に分けたい場合 |
| 共有 | 持分を分け合ってそのまま共有する | 決められないときの先送り(おすすめしません) |
代償分割で渡す現金を代償金、現金以外の財産を渡す場合は代償財産と呼びます。
たとえば、遺産が大阪市内の実家(時価3,000万円)だけで、相続人がご兄弟2人(法定相続分は各2分の1)の場合。お兄さんが実家を取得し、弟さんに1,500万円を渡す。これが代償分割の基本形です。
ポイントは、この1,500万円が遺産の中から出てくるわけではないという点です。取得する人が自分の財布から用意します。ここが最初の、そして最大のハードルになります。
なお、共有のまま放置する選択については共有物分割請求の実務で整理しています。
デメリット1:代償金の原資は、自分で用意するしかありません
代償分割が途中で止まる原因の大半がこれです。
「相続する不動産を担保に借りればいい」と考えても、その時点では登記名義がまだ亡くなった方のままです。相続登記を先に済ませる必要がありますが、登記をするには遺産分割協議がまとまっていなければならない。協議をまとめるには代償金の目処が立っていなければならない。この順番でぐるぐる回ってしまいます。
亡くなった方の預金を使う方法もあります。遺産分割前でも、各共同相続人は預貯金の一部を単独で払い戻せる制度があり、単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)で計算します。ただし同一の金融機関に対する権利行使は法務省令で定める額(150万円)が限度とされています(2019年7月1日施行)。
出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」(2026年8月13日確認)
150万円です。葬儀費用や当面の生活費には役立ちますが、数百万円から数千万円の代償金の原資にはなりません。
宅建業者の視点
「兄が実家を継いで、妹に現金を渡す」という話でまとまりかけていたご家族が、半年後に振り出しに戻ったことがありました。銀行に相談したところ、相続登記が済んでいないと融資の審査に乗らないと言われ、登記を先にするには協議書に代償金の額を書かなければならず、その額を払えるかどうかが決まらない——という堂々巡りです。代償分割を検討し始めた最初の1週間で、金融機関に「いくらまでなら借りられるか」だけ確認しておくと、この空回りは避けられます。
デメリット2:「いくら渡すか」の金額でもめます
代償金の額に、法律で決まった計算式はありません。相続人全員の合意で決めます。
実務上は「不動産の価額 × 相手の法定相続分」が出発点になりますが、その「価額」に何を使うかで結果が大きく変わります。
- 固定資産税評価額:毎年届く納税通知書に載っている金額。低めに出やすい
- 相続税評価額(路線価):相続税・贈与税の計算に使う評価額(国税庁 財産評価基準書)
- 実際に売れる価格:不動産会社の査定額・買取価格
路線価は相続税を計算するための評価額であって、市場で売れる価格そのものではありません。受け取る側は高い基準を、渡す側は低い基準を主張しますので、基準が決まらないまま金額だけ議論しても平行線になります。
もめない進め方は単純で、先に共通の物差しを1つ用意することです。複数社の査定書を全員が同時に見る。買取価格も含めて並べる。そうすると「この物件を今日現金化したらいくらか」という現実の数字が土台になり、感情の議論から数字の議論に変わります。
大阪市内でも、同じ区の似た広さの土地で、接道の状況や再建築の可否によって査定額が大きく分かれることは珍しくありません。近所の相場感だけで代償金を決めてしまうと、後で「安く買い叩かれた」という不満が残ります。
デメリット3:分割払いにすると、数年分の火種が残ります
「一括では無理なので、毎月10万円ずつ10年で払う」——こうした取り決めもできます。ただし、相続の話し合いを、10年続く貸し借りに変えてしまうという側面があります。
途中で支払いが滞ったとき、受け取る側には未払分を請求する手間が残ります。転職・病気・離婚といった10年の間に起こりうる出来事が、そのまま相続のもめ事に戻ってきます。
分割払いにする場合、遺産分割協議書には最低限これだけは書いておいてください。
- 代償金の総額と、支払う人・受け取る人の氏名
- 支払期日と金額(「毎月末日限り金10万円」のように日付で特定する)
- 振込先の口座と、振込手数料をどちらが負担するか
- 支払いが遅れた場合の取り決め(残額を一括で支払う旨など)
協議書の書き方は遺産分割協議書の書き方にまとめています。
金額が大きい場合は、公正証書にしておく方法もあります。話し合いがまとまらず調停に進む場合は、遺産分割調停の流れをご覧ください。申立先は相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所で、費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と郵便料です。
出典:裁判所「遺産分割調停」(2026年8月13日確認)
デメリット4:税金の落とし穴が3つあります
落とし穴1:相続税の課税価格は、代償金の分だけ振り替わります
代償分割をしても、相続税がなくなるわけではありません。国税庁は課税価格の計算をこう定めています。
- 代償財産を交付した人:相続または遺贈により取得した現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額
- 代償財産の交付を受けた人:相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額の合計額
出典:国税庁「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」(2026年8月13日確認)
つまり現金を受け取った側にも相続税の課税価格が立ちます。「不動産をもらっていないから関係ない」ということにはなりません。
落とし穴2:現金の代わりに不動産を渡すと、譲渡所得税が生じることがあります
現金が用意できないため、自分名義の別の土地を代わりに渡す。この形は可能ですが、税金の扱いが変わります。
国税庁の通達では、代償分割により負担した債務が資産の移転を要するものである場合において、その履行として資産の移転があったときは、その履行をした者は、その履行をした時においてその時の価額により資産を譲渡したことになるとされています。
出典:国税庁「法第33条《譲渡所得》関係」(所得税基本通達)(2026年8月13日確認)
1円も現金を受け取っていないのに、譲渡所得税の対象になり得ます。ここは思い込みで進めると危険な部分ですので、実行前に必ず税理士へご確認ください。
落とし穴3:空き家の3,000万円特別控除を使えるのが1人分になります
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特別控除は、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。適用対象は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間の譲渡で、売却代金が1億円以下であること、対象家屋は区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外)などの要件があります。また令和6年1月1日以後の譲渡で、取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円までとなります。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(2026年8月13日確認)
ここで効いてくるのが分け方の違いです。代償分割で1人が単独取得して後日売却すれば、控除を使えるのはその1人だけです。換価分割で相続人がそれぞれ取得したうえで売却する形なら、各相続人が要件を満たす限りそれぞれ控除を使える余地があります(相続人3人以上なら1人2,000万円)。
売却して現金化する前提なら、分け方の選択がそのまま手残りの差になります。空き家特例の要件は細かいので、空き家3,000万円特別控除の要件もあわせてご確認ください。
なお、相続税を納めた不動産を売る場合は相続財産を譲渡した場合の取得費の特例があります。その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることが要件です。
出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(2026年8月13日確認)
デメリット5:協議が成立したら、3年以内に登記の義務があります
代償分割で話がまとまっても、そこで終わりではありません。
相続登記は令和6年4月1日から申請が義務化され、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です。正当な理由がないのに怠った場合は10万円以下の過料の適用対象とされています。さらに遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた所有権の移転の登記を申請することが義務付けられました。施行日より前に開始した相続も対象で、令和9年3月31日までの猶予期間が設けられています。
出典:法務省「相続登記の申請義務化について」(2026年8月13日確認)
「協議書は作ったが、代償金の支払いが終わっていないので登記はまだ」という状態が、いちばん危険です。登記の期限は代償金の支払いとは連動しません。詳しくは相続登記の3年ルールをご覧ください。
代償分割をやめて換価分割に切り替える判断ライン
デメリットを5つ並べましたが、代償分割そのものが悪い方法というわけではありません。残す理由がはっきりしていれば、有力な選択肢です。
判断の目安はこの3つです。
| 確認すること | 代償分割で進めてよい | 換価分割を検討したほうがよい |
|---|---|---|
| その不動産を使う人 | 住む・貸す予定が具体的にある | 誰も住まず、貸す予定もない |
| 代償金の原資 | 自己資金または融資の目処がある | 当てがない・分割払いしかできない |
| 建物の状態 | 貸せる・住める状態を保っている | 老朽化していて修繕費が読めない |
宅建業者の視点
大阪市内でご相談が多いのは、築40年以上の実家や文化住宅を「長男が継ぐ」と決めたあと、修繕費と固定資産税の負担が長男だけに残ってしまうケースです。代償金を払ったうえに、毎年の税金と管理を1人で背負う。数年後に「やっぱり売りたい」となったとき、すでに代償金を渡してしまっているため、手元にはほとんど残りません。誰も住まない見込みなら、最初から売って分けたほうが、金額でも人間関係でも傷が浅く済みます。
換価分割にする場合、仲介で買い手を探すと売却期間が読めず、10か月の相続税の期限に間に合わないことがあります。期限が迫っている場合や、現況のまま早く確定させたい場合は、買取という選択肢もあります。兄弟間の話し合いが行き詰まっている場合は、相続不動産の家族トラブルの解決法も参考になさってください。
よくある質問
Q. 代償金を渡す前に、相続登記だけ先にしても大丈夫ですか。
A. 遺産分割協議書の内容どおりであれば登記はできます。ただし受け取る側からすると、登記が終わった後に支払いが滞るリスクが残ります。協議書に支払期日と遅延した場合の取り決めを明記したうえで進めてください。
Q. 代償金を安くしてもらう代わりに、私が固定資産税を全部払うという約束は有効ですか。
A. 相続人間の合意としては有効ですが、市税事務所に対しては所有者が納税義務者です。口約束にせず、金額と期間を協議書に書いておいてください。
Q. 相続人が海外にいる場合も代償分割はできますか。
A. できます。ただし印鑑証明書の代わりにサイン証明(署名証明)が必要になるなど、書類の準備に時間がかかります。送金の手続きも含めて、早めに動き出してください。
Q. 代償金の額に納得できないまま署名してしまいました。やり直せますか。
A. 一度成立した遺産分割協議をやり直すのは簡単ではありません。署名の前に、必ず査定書という客観的な数字を確認してください。まだ署名していない段階であれば、査定だけ先に取ることをおすすめします。
まとめ
- 代償分割は、1人が不動産を取得し、他の相続人に現金を渡して精算する分け方です。物理的に分けずに済む反面、現金の用意が前提になります
- 代償金の原資は自分で用意するしかありません。遺産分割前の預貯金の払戻しは、同一の金融機関につき150万円が限度です(法務省)
- 金額は全員の合意で決まります。路線価は相続税の評価額であって売却価格ではありませんので、先に複数社の査定という共通の物差しを用意してください
- 現金の代わりに不動産を渡すと、その時の価額で譲渡したことになります(国税庁 所得税基本通達)。税理士への確認が必須です
- 空き家の3,000万円特別控除は、代償分割だと1人分しか使えません。令和6年1月1日以後の譲渡で相続人3人以上の場合は1人2,000万円、適用期限は令和9年12月31日です(国税庁 No.3306)
- 遺産分割が成立した日から3年以内に登記の申請義務があります。10万円以下の過料の対象です(法務省)
誰も住まない家を、無理に代償金を払ってまで1人が抱える必要はありません。「残す理由があるかどうか」を先に決めれば、答えは自然に絞られます。
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