空き家のミカタ

大阪市の長屋は切り離せる?隣家の同意が必要な理由と出口3つ【2026年版】

空き家のミカタ編集部|宅地建物取引業者(大阪府知事(1)第65646号)
古い住宅が軒を連ねる狭い路地。大阪市内に多い長屋・文化住宅の密集した街並み

結論:長屋の切り離し(分棟)には、原則として隣戸所有者の同意が必要です。境界線上の壁は民法229条により相隣者の共有と推定され、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が要る(民法251条1項)ためです。そして同意が取れて切り離せたとしても、敷地が道路に2m以上接していなければ再建築はできません(建築基準法43条1項)。つまり長屋の出口は「切り離す」の一択ではなく、①賃貸で残す、②隣戸を買い増して一棟にまとめる、③現況のまま買取に出す、の3つを比べて選ぶことになります。

大阪市内には、戦後から昭和40年代にかけて建てられた長屋・文化住宅が今も数多く残っています。生野区や東成区、西成区のように、道幅の狭い路地に木造住宅が密集している地域では珍しい建物ではありません。

こうした長屋の一戸を相続された方から、毎年いただくご相談があります。「うちの分だけ切り離して更地にしたい」というものです。

お気持ちはよくわかります。使う予定のない家に固定資産税を払い続けるのは、納得しづらいものです。ただ、この「切り離し」は、ご自身の判断だけでは進められません。この記事では、その理由と、代わりに取れる選択肢を整理してお伝えします。

連棟式建物の売却そのものの流れは連棟式建物(長屋)は売れない?買取なら現金化できる理由にまとめていますので、あわせてご覧ください。

切り離しに隣家の同意が必要な理由|民法229条と251条

長屋は、隣の家と壁でつながっています。この壁の扱いが、すべての出発点です。

民法にはこう定められています。

境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。(民法229条)

つまり境界線の上に建っている壁は、隣の家との共有物だと推定されるということです。あなたの家の壁であると同時に、隣の家の壁でもある、という扱いになります。

そして共有物について、民法はこう定めています。

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができない。(民法251条1項)

出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月13日確認)

壁を取り壊すことは、どう見ても「形状の著しい変更」です。したがって、その壁を含む切り離し工事には、隣戸所有者の同意が必要になります。3戸連なった長屋の真ん中を切り離すなら、両隣2軒の同意が要ります。

なお、これはあくまで「推定」です。壁が完全にご自身の敷地の内側に収まっていることを、測量図と現況で示せる場合は共有の推定は及びません。ただし昭和20〜40年代に建てられた長屋では、境界がそもそも確定していない、あるいは壁の中心線が境界かどうか判然としないことがほとんどです。実務では、同意を取る前提で計画を立てることになります。

同意以外にも、隣家の協力が要る場面があります

書類に署名する手元。長屋の切り離しには隣戸所有者の同意書が必要になる

同意書に判をもらえば終わり、というわけではありません。切り離すと、隣家の壁が外側にむき出しになります。

そのため実務では、次のような工事とその費用負担を、あらかじめ隣戸所有者と取り決めておく必要があります。

  • むき出しになる隣家の壁の防水・外装工事(雨仕舞いをしないと隣家が雨漏りします)
  • 切り離し面の構造の補強(長屋は連なった状態で全体の強度を保っている構造です)
  • 工事期間中の隣家への影響(振動・騒音・共用配管の切り回し)

ここが、切り離しが「同意さえ取れれば安い」と言えない理由です。ご自身の一戸を壊す費用に加えて、隣家の壁を仕上げ直す費用が乗ってきます。そして工事の後で隣家に不具合が出れば、その責任を問われる可能性も残ります。

大阪市内の解体費用の目安は大阪市の解体費用相場で整理していますが、長屋の切り離しは通常の一戸建て解体とは別物と考えてください。

宅建業者の視点
「隣は親戚だから話はすぐつく」とおっしゃっていたご相談者が、実際に動き出したら止まってしまったことがありました。隣戸のお名前は確かに親戚でしたが、その方はすでに亡くなっていて、相続登記が済んでいなかったのです。同意をもらうべき相手が、面識のない甥・姪の代まで広がっていました。切り離しを検討し始めたら、最初に法務局で隣戸の登記事項証明書を取って、今の名義人が誰かを確認してください。ここで話が変わるケースは、思っている以上に多いです。

同意が取れても、再建築できるとは限りません

ここが、いちばん誤解の多い部分です。

「切り離して更地にすれば、普通の土地として売れる」——そうなるとは限りません。建築基準法にはこう定められています。

建築物の敷地は、道路に二メートル以上接しなければならない。(建築基準法43条1項)

出典:e-Gov法令検索「建築基準法」(2026年8月13日確認)

ここでいう「道路」は、建築基準法42条で定義されたもので、原則として幅員4m以上のものを指します。

長屋の一戸分の敷地は、間口が2間(約3.6m)程度で、路地の奥に位置していることがよくあります。この場合、切り離して単独の敷地にしても、接道の要件を満たさないため建物を建てられません。お金と手間をかけて更地にした結果、「建てられない土地」と「消えた住宅用地の特例」だけが残る、ということが起こり得ます。

整理すると、次の2つはまったく別の問題です。

論点 決めるもの 判断の根拠
壊せるか 隣戸所有者の同意が取れるか 民法229条・251条(共有壁)
建てられるか 敷地が道路に2m以上接しているか 建築基準法42条・43条(接道義務)

前面の路地が幅員4m未満でも、いわゆる2項道路(建築基準法42条2項)に指定されていれば、セットバックを条件に建築できる場合があります。この扱いは2項道路のセットバックと売却で詳しくお伝えしています。再建築不可の物件全般については再建築不可物件の売却ガイドをご覧ください。

更地にする前に、必ず市の建築指導部局で前面道路の種別と接道状況をご確認ください。この確認は無料でできますし、順番を間違えると取り返しがつきません。

大阪市の密集住宅市街地|使える除却・建替の補助制度

連なる瓦屋根を上から見た住宅密集地。長屋が軒を接して並ぶ密集住宅市街地の様子

大阪市は、木造住宅が密集した地域の防災性を高めるため、解体や建て替えに対する補助制度を設けています。長屋の出口を考えるうえで、ここは必ず確認しておきたい部分です。

大阪市は密集住宅市街地を2段階に分けています。重点対策地区が約210ha、対策地区が約3,800haです。目的は「延焼危険性及び避難困難性に対する最低限の安全性の確保」とされています。

出典:大阪市「密集住宅市街地の整備と補助金制度について」(2026年8月13日確認)

狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度の補助上限

解体(除却)に対する補助として、狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度があります。正式名称は「大阪市民間老朽住宅建替支援事業狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度補助金」です。

区分 対象となる住宅 補助上限(戸建住宅) 補助上限(集合住宅)
対策地区 幅員4m未満の道路に面する敷地等にある昭和25年以前の木造住宅 105万円/戸 80万円/戸
重点対策地区 幅員6m未満の道路に面する敷地等にある昭和56年5月31日以前の木造住宅 170万円/戸 125万円/戸

なお、複数の道路に面する敷地の場合は、狭いほうの道路が要件を満たしていれば補助対象とされています。角地だから対象外、と早合点なさらないでください。

出典:大阪市「狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度」(2026年8月13日確認)

このほか、大阪市には防災空地活用型除却費補助制度(解体費と空地整備費の一部を補助)、建替建設費補助制度(集合住宅向け・戸建住宅向け)、戸建住宅等耐震診断・改修補助制度があります。

長屋が「戸建住宅」と「集合住宅」のどちらの区分で扱われるかで金額が変わりますので、この判断は必ず事前相談でご確認ください。

順番を間違えると補助が受けられません

大阪市が示している手続きの流れは、事前相談 → 申請 → 審査 → 交付決定 → 工事契約・実施 → 完了報告 → 補助金請求・支払いです。

工事契約は交付決定の後です。解体業者に見積もりを取って、そのまま契約して壊してしまってから市役所に相談する——この順番だと補助の対象になりません。

補助金は毎年度の予算で運用されており、要件・金額・受付期間は年度ごとに変わります。お問い合わせは必ず大阪市の担当窓口へ直接なさってください。区ごとの相談窓口は大阪市の空き家補助金・相談窓口にまとめています。

長屋の一戸だけを相続すると、なぜ融資が付かないのか

「買い手は見つかりそうなのに、住宅ローンの審査で落ちてしまう」。長屋の売却でよく起こることです。

理由は、担保としての評価が出にくい点にあります。金融機関の審査基準は各社で異なりますが、長屋の場合は次の2つが重なります。

  1. 再建築ができない敷地であること。接道要件を満たさない土地は、将来売却しようとしたときの買い手が限られます。担保として押さえても、回収の見込みが立ちにくくなります
  2. 建物を単独で処分できないこと。壁を隣戸と共有しているため、建て替えも大規模修繕も、ご自身の判断だけでは実行できません

結果として、買い手が現金を用意できる方に限られます。これが、仲介に出しても内見はあるのに契約に至らない、期間だけが過ぎていく、という状況の正体です。仲介で断られた後の選択肢は不動産会社に断られた後にできることで整理しています。

登記のかたちで、できることが変わります

長屋には、登記のされ方が2通りあります。ここを最初に確認してください。

  • 区分所有建物として登記されている場合:一戸ごとに独立した登記があり、その一戸だけを単独で売買できます
  • 一棟の建物として登記され、持分を共有している場合:一戸だけを切り出して売ることが難しく、共有者全員の関与が必要になります

登記事項証明書は法務局で取得できます。共有名義になっている場合の持分の考え方は共有持分の計算方法をご覧ください。

隣戸の所有者が分からないときの手段

老朽化した建物の屋根を解体する作業員。長屋の切り離し工事は隣家の壁の補修を伴う

長屋の相談で行き止まりになりやすいのが、隣戸が空き家で、持ち主が誰なのか分からないというケースです。同意を求めようにも相手がいません。

このために設けられた制度があります。民法264条の8の所有者不明建物管理制度です。

裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(中略)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人による管理を命ずる処分をすることができる。(民法264条の8第1項)

出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月13日確認)

この制度は2023年(令和5年)4月1日に施行されました。裁判所が選任した管理人が、その建物の管理処分権を持ちますので、その管理人を相手に協議を進められるようになります。

ただし注意点があります。区分所有建物には、この所有者不明建物管理制度は適用されません(区分所有法6条4項)。長屋が区分所有建物として登記されている場合は使えないということです。なお区分所有建物については、令和7年改正の区分所有法(令和8年4月1日施行)で所有者不明専有部分管理制度が創設されています。

出典:法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」(2026年8月13日確認)

いずれも裁判所への申立てが必要な手続きです。費用と時間がかかりますので、実行の前に弁護士・司法書士へご相談ください。隣戸の所有者は分かっているものの相続登記が済んでいない、という場合は相続登記の義務化と3年ルールもあわせてご確認ください。

出口3つの比較|貸す・買い増す・現況で売る

切り離しが簡単ではないとすると、現実的な出口は次の3つです。相続された長屋について、この表で当てはまるものを探してみてください。

①賃貸で残す ②隣戸を買い増す ③現況のまま買取
最初に出ていくお金 修繕・原状回復の費用 隣戸の購入代金+諸費用 なし
隣戸所有者の関与 不要 売る意思が必要 不要
期間の見通し 入居者募集次第 交渉次第で数年かかることも 短い
その後の負担 固定資産税・管理・修繕が続く 一棟化すれば単独で判断できる なくなる
向いている方 手元資金があり、賃貸経営を続ける意思がある方 隣戸も取得できる資金があり、土地としてまとめたい方 早く負担を手放したい方・遠方にお住まいの方

①賃貸で残すのは、建物がまだ貸せる状態にある場合の選択肢です。ただし長屋は現行の建築基準に適合していないことが多く、大規模なリフォームをしようとすると建築確認が必要になる場面があります。改修費を回収できる家賃が取れるかどうかが分かれ目です。

②隣戸を買い増すのは、一棟すべてを1人の名義にまとめる方法です。まとまれば切り離しの同意問題は消え、解体も建て替えも単独で判断できます。土地としての価値も上がります。ただし相手が売る意思を持っているかどうかは、こちらでは決められません。隣戸も相続で名義が動いていて、先方も持て余していた——という形で話が進むこともあります。まず登記を確認して、可能性があるかどうかを見るところからです。

③現況のまま買取は、切り離しも修繕もせず、今の状態のまま手放す方法です。手残りは3つの中でいちばん小さくなりますが、追加の出費と時間の負担がありません。大阪市内の買取価格の傾向は大阪市24区の買取データでご確認いただけます。

宅建業者の視点
生野区の3戸長屋の真ん中を相続された方から、「切り離して駐車場にしたい」というご相談をいただいたことがあります。試算してみると、ご自身の解体費に加えて両隣2軒分の壁の仕上げ工事が必要で、そのうえ前面路地が幅員2.7mだったため、更地にしても建物は建てられない土地でした。駐車場にするにも、路地を車が通れません。結果としては、両隣のうち1軒が「うちも困っている」という状態だったため、2戸をまとめて買い取らせていただく形で話がまとまりました。切り離しという方法にこだわらず、隣戸の事情まで含めて見渡すと、道が開けることがあります。

まとめ

  • 境界線上の壁は隣戸との共有と推定され(民法229条)、共有物の変更には他の共有者の同意が必要です(民法251条1項)。長屋の切り離しは、ご自身の判断だけでは進められません
  • 同意以外に、むき出しになる隣家の壁の防水・補強工事とその費用負担の取り決めが必要です。通常の一戸建て解体とは費用の性質が違います
  • 切り離せても再建築できるとは限りません。敷地は道路に2m以上接している必要があります(建築基準法43条1項)。更地にする前に前面道路の種別を市の窓口でご確認ください
  • 大阪市の狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度は、対策地区で戸建105万円/集合80万円、重点対策地区で戸建170万円/集合125万円が上限です(大阪市)。工事契約は交付決定の後、という順番を守ってください
  • 隣戸の所有者が分からない場合は、所有者不明建物管理制度(民法264条の8・2023年4月1日施行)が使える場合があります。ただし区分所有建物には適用されません
  • 現実的な出口は、賃貸で残す・隣戸を買い増す・現況のまま買取の3つです。切り離しは目的ではなく手段のひとつにすぎません

長屋は「壊せない・建てられない・貸しにくい」が重なりやすい建物です。ただ、動かしようがないわけではありません。登記のかたちと前面道路を確認するだけでも、取れる選択肢はかなり絞り込めます。


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