大阪の文化住宅・長屋を相続したら|24区別データと入居者がいる場合の出口【2026年版】
結論:大阪の「文化住宅」と「長屋」は、見た目が似ていても分類が違います。各戸が別々に外へ出入りするものが「長屋建」、廊下や階段を共用するものが「共同住宅」で、文化住宅と呼ばれる建物には両方が含まれます。この区分によって建築基準法上の扱いと解体補助の限度額が変わります。そして相続したときにいちばん効いてくるのは、入居者の有無です。大阪市の解体補助は賃貸住宅について「入居者の同意が得られたものに限ります」と定めているため、入居者が住んだままでは補助の申請そのものができません。出口は「立退きを済ませて更地にする」か「入居者が住んだまま現況で売る」かの二択になり、どちらを選ぶかは手残りの比較で決まります。
大阪市の長屋建住宅は、令和5年の調査で3万1,200戸です。5年前より1万4,600戸、率にして31.9%減りました。減っているということは、比べられる取引事例も減っているということです。「相場がわからない」「査定額が業者によって倍以上違う」という状態が起きるのは、そのためです。
この記事では、まず大阪市24区に長屋がどれだけ残っているかを一次統計で示し、次に「長屋」と「文化住宅」で何が変わるのか、最後に入居者がいる状態で相続した場合の出口を整理します。
大阪市の長屋建は5年で31.9%減|24区別に残っている場所
令和5年住宅・土地統計調査によると、大阪市の居住世帯のある住宅は152万400戸です。建て方別の内訳は次のとおりです。
| 建て方 | 住宅数 | 構成比 | 平成30年からの増減 |
|---|---|---|---|
| 共同住宅 | 114万2,500戸 | 75.1% | +13万7,600戸(+13.7%) |
| 一戸建 | 34万4,200戸 | 22.6% | +1万9,000戸(+5.8%) |
| 長屋建 | 3万1,200戸 | 2.1% | △1万4,600戸(△31.9%) |
| その他 | 2,400戸 | 0.2% | — |
出典:大阪市「令和5年住宅・土地統計調査」(2026年8月24日確認)
平成5年には16万2,560戸(構成比15.7%)あった長屋建が、30年で5分の1以下になりました。大阪市の住宅の4分の3は今や共同住宅で、そのうち11階建以上が40.3%を占めます。長屋は、街の主流から完全に外れた住宅形式になっています。
区によって残り方がまったく違います
市全体の構成比は2.1%ですが、区別に見ると大きな差があります。
| 区 | 住宅数 | 長屋建 | 構成比 | 区 | 住宅数 | 長屋建 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 生野 | 70,540 | 4,590 | 6.5% | 城東 | 84,600 | 1,490 | 1.8% |
| 西成 | 65,110 | 3,800 | 5.8% | 淀川 | 108,750 | 1,480 | 1.4% |
| 東住吉 | 62,500 | 3,040 | 4.9% | 住之江 | 61,760 | 790 | 1.3% |
| 港 | 42,900 | 1,530 | 3.6% | 天王寺 | 44,070 | 450 | 1.0% |
| 東成 | 48,300 | 1,630 | 3.4% | 都島 | 58,950 | 520 | 0.9% |
| 此花 | 32,590 | 1,090 | 3.3% | 福島 | 44,950 | 420 | 0.9% |
| 平野 | 92,020 | 3,020 | 3.3% | 大正 | 29,030 | 240 | 0.8% |
| 阿倍野 | 54,180 | 1,650 | 3.0% | 西淀川 | 47,890 | 330 | 0.7% |
| 住吉 | 82,390 | 2,170 | 2.6% | 北 | 89,710 | 310 | 0.3% |
| 旭 | 46,430 | 960 | 2.1% | 中央 | 73,880 | 230 | 0.3% |
| 鶴見 | 49,840 | 1,040 | 2.1% | 東淀川 | 102,860 | 300 | 0.3% |
| — | — | — | — | 西 | 68,480 | 90 | 0.1% |
| — | — | — | — | 浪速 | 58,610 | 30 | 0.1% |
(単位:戸。住宅数は居住世帯のある住宅の総数)出典:大阪市「令和5年住宅・土地統計調査」(2026年8月24日確認)
生野区・西成区・東住吉区の3区だけで1万1,430戸、市内の長屋建の36.6%を占めます(当社試算)。一方、浪速区は30戸、西区は90戸しかありません。
この偏りは、そのまま「その区で長屋を扱った経験のある不動産会社がいるかどうか」の偏りでもあります。浪速区や西区の会社にとって長屋は生涯に数回しか出会わない物件ですが、生野区では日常です。査定額が会社によって大きく違う背景には、この経験量の差があります。
宅建業者の視点
東住吉区の文化住宅を相続された方から、「3社に査定を頼んだら、一番高いところと一番安いところで3倍近い差が出た。どれが本当なのか」というご相談をいただいたことがあります。中身を見せていただくと、高い査定は「全戸退去済み・更地渡し」を前提にした金額で、安い査定は「入居者2世帯が残ったまま」の金額でした。どちらも嘘ではなく、前提が違っていただけです。査定額を比べるときは、金額の前に「この価格は、どういう状態を前提にした価格ですか」と必ずお尋ねください。ここを揃えないと比較になりません。
「長屋」と「文化住宅」は同じではありません
「文化住宅」は、大阪で昭和30〜40年代に大量に建てられた木造2階建て賃貸住宅の通称です。法律用語でも統計用語でもありません。だからこそ、行政の手続きや売却の場面では「文化住宅です」と言っても話が通じず、必ず別の分類に置き換えられます。
置き換え先になるのが、次の区分です。住宅・土地統計調査の用語解説では、こう定義されています。
長屋建 二つ以上の住宅を一棟に建て連ねたもので、各住宅が壁を共通にし、それぞれ別々に外部への出入口をもっているもの。いわゆる「テラスハウス」と呼ばれる住宅もここに含まれる。
共同住宅 一棟の中に二つ以上の住宅があり、廊下・階段などを共用しているものや二つ以上の住宅を重ねて建てたもの
出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 用語の解説」(2026年8月24日確認)
分かれ目は「出入口」です。各戸が直接それぞれの玄関から外に出るなら長屋建、外階段や2階の共用廊下を通って各戸に入るなら共同住宅になります。
冒頭の写真のような、外階段があって2階に細長い共用廊下が渡っているタイプは共同住宅です。一方、次の写真のように、各戸の玄関が直接道路に面して横に並んでいるものが長屋建です。
建築基準法では「特殊建築物」かどうかが変わります
この区分は、統計の都合だけの話ではありません。建築基準法にはこう定められています。
特殊建築物 学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。(建築基準法2条2号)
出典:e-Gov法令検索「建築基準法」(2026年8月24日確認)
この列挙に「共同住宅」は入っていますが、「長屋」は入っていません。特殊建築物になると、用途変更や大規模な改修を行うときの手続き、内装制限、避難関係の規定などで、長屋より厳しい扱いを受ける場面が出てきます。
つまり「うちのは文化住宅です」だけでは、どちらの規制が乗るのか決まりません。役所の窓口でも、買取業者の査定でも、まず出入口の形を確認されることになります。
登記のかたちも合わせて確認してください
もうひとつ確認していただきたいのが登記です。同じ長屋でも、一戸ごとに独立した登記がある「区分所有建物」の場合と、一棟の建物として登記されていて持分を共有している場合があります。前者は一戸だけ単独で売買できますが、後者は共有者全員の関与が必要になります。登記事項証明書は法務局で取得できますので、動き出す前に取り寄せてください。
なお、壁を共有する長屋を切り離す場合の同意の問題は大阪市の長屋は切り離せる?隣家の同意が必要な理由で、連棟式建物が仲介で断られやすい理由は連棟式建物(長屋)は売れない?で詳しくお伝えしています。
相続した長屋・文化住宅は「貸している建物」であることが多いです
ここから、相続の場面の話に入ります。
一戸建てを相続する場合と長屋・文化住宅を相続する場合で決定的に違うのが、建物に他人が住んでいる確率です。大阪府全体の数字で見ると、次のようになっています。
| 建て方 | 持ち家 | 借家 |
|---|---|---|
| 一戸建 | 91.2%(152万3,600戸) | 4.4%(7万3,500戸) |
| 長屋建 | 40.1%(4万5,400戸) | 42.5%(4万8,100戸) |
| 共同住宅 | 29.7%(71万4,200戸) | 66.3%(159万5,900戸) |
出典:大阪府「令和5年住宅・土地統計調査 結果の概要」(2026年8月24日確認)
長屋建は、持ち家より借家のほうが多い建物です。一戸建てなら9割以上が持ち家ですから、相続すれば普通は空き家になります。ところが長屋・文化住宅では、相続した時点で他人が住んでいる可能性のほうが高い。文化住宅は多くが共同住宅に分類されますので、その場合はさらに借家率が上がります。
このため、「親の家を相続した」という感覚で動き始めた方が、途中で「賃貸経営を引き継いでいた」と気づくことが起こります。家賃の入金、修繕の依頼、退去の連絡が、ある日から自分のところに来るようになります。
入居者がいるアパートの売り方全般は入居者がいるアパートの売却方法にまとめていますが、文化住宅には固有の事情がありますので、以下で分けてお伝えします。
入居者がいると、大阪市の解体補助は申請できません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
「古くて貸せる状態じゃないから、補助金をもらって壊してしまおう」——文化住宅を相続された方が最初に考えるのが、たいていこの筋道です。大阪市には木造密集市街地の解体を後押しする制度があり、実際に相応の金額が出ます。
ところが大阪市の狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度は、対象建物の要件として次のように定めています。
賃貸住宅の場合、入居者の同意が得られたものに限ります。
出典:大阪市「狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度」(2026年8月24日確認)
つまり入居者が住んだままでは、補助の申請そのものができません。順番としては、退去と同意が先で、補助はその後です。補助金を当てにして解体費を組み立てていると、立退きが終わるまで一歩も動けないことになります。
制度の中身(令和8年度)
要件と金額を整理しておきます。
| 項目 | 対策地区 | 重点対策地区 |
|---|---|---|
| 対象となる道路 | 幅員4m未満の道路に面する敷地等 | 幅員6m未満の道路に面する敷地等 |
| 対象となる建築時期 | 昭和25年以前の木造住宅 | 昭和56年5月31日以前の木造住宅 |
| 補助率 | 1/2以内 | 4/5以内 |
| 補助限度額(戸建住宅) | 105万円/戸 | 170万円/戸 |
| 補助限度額(集合住宅) | 80万円/戸 | 125万円/戸 |
補助率は「解体および整地に要する費用(契約金額)」と「大阪市が定める額」の低いほうに対して適用され、市が定める額は戸建住宅・集合住宅とも27,000円/平方メートルです。これとは別に一部エリアの取扱いがあり、そこでは戸建住宅100万円/棟・集合住宅200万円/棟、長屋等の一部解体における限度額は100万円/棟とされています。
あわせて、見落としやすい条件が4つあります。
- 建築年次以前に建てられた部分のみが補助対象です。増築を繰り返した文化住宅では、対象になる部分とならない部分が分かれます。年次は固定資産(家屋)評価証明書で確認されます
- 建物内の残存物の撤去費等は補助の対象外です。家財が残ったままの文化住宅では、この費用が別に必要になります
- 店舗や事務所等との併用住宅は、床面積合計の1/2以上が住宅の用に供されている必要があります。1階が店舗の文化住宅では確認が要ります
- 複数の道路に面する敷地の場合、狭いほうの道路が要件を満たしていれば補助対象になります。角地だから対象外と早合点なさらないでください
出典:大阪市「狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度」(2026年8月24日確認)
日程の制約もあります
申請受付期間は4月1日〜12月28日で、工事着手予定日の40日以上前に申請する必要があり、交付の可否が決まるまで40日程度かかります。さらに、交付申請前に解体の工事契約をした場合は原則として補助を受けられません。
「入居者の退去を待つ → 申請する → 40日待つ → 契約して着工する」という順番になりますので、逆算するとかなりの時間が必要です。予算の状況によっては受付期間中でも受付が停止・終了することがあります。制度の内容は年度ごとに変わりますので、必ず大阪市の担当窓口へ直接ご確認ください。区ごとの相談窓口は大阪市の空き家補助金・相談窓口にまとめています。解体費用そのものの目安は大阪市の解体費用相場をご覧ください。
築年数の偏り|長屋建の4割強が昭和55年以前です
もうひとつ、長屋・文化住宅に固有の事情があります。建てられた時期の偏りです。
大阪府の建て方別・建築時期別の住宅数は次のとおりです。
| 建築の時期 | 総数 | 一戸建 | 長屋建 | 共同住宅 |
|---|---|---|---|---|
| 昭和25年以前 | 6万7,500戸 | 5万6,800戸 | 7,800戸 | 2,700戸 |
| 昭和26年〜45年 | 21万8,100戸 | 11万7,100戸 | 1万7,800戸 | 8万2,800戸 |
| 昭和46年〜55年 | 60万600戸 | 25万5,800戸 | 2万1,100戸 | 32万3,200戸 |
| 昭和55年以前 計 | 88万6,200戸 | 42万9,700戸 | 4万6,700戸 | 40万8,700戸 |
| 昭和56年以降 | 299万7,900戸 | 110万8,600戸 | 3万4,900戸 | 185万2,800戸 |
| 総数 | 419万7,000戸 | 167万1,500戸 | 11万3,200戸 | 240万8,200戸 |
出典:大阪府「令和5年住宅・土地統計調査 結果の概要」(2026年8月24日確認)
住宅全体では昭和55年以前の建物は21.1%です。ところが長屋建では11万3,200戸のうち4万6,700戸、41.3%が昭和55年以前になります(当社試算)。全体のおよそ2倍の比率です。
昭和56年5月31日という日付は、建築基準法の耐震基準が変わった区切りです。これより前に建築確認を受けた建物は、いわゆる旧耐震にあたります。この点が、買い手の住宅ローンに直結します。
たとえば【フラット35】の中古住宅の技術基準では、昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた住宅について、耐震評価基準等への適合が求められます。あわせて、敷地が幅員2m以上の道路に接していることも基準に含まれます。
出典:住宅金融支援機構「【フラット35】中古住宅の技術基準の概要」(2026年8月24日確認)
旧耐震であること、そして路地の奥で接道が2mに満たないこと。長屋・文化住宅ではこの2つが重なりやすく、結果として買い手が現金を用意できる方に限られます。これが「内見はあるのに契約に至らない」状態の正体です。接道の問題は2項道路のセットバックと売却と再建築不可物件の売却ガイドで整理しています。仲介で断られた後の選択肢は不動産会社に断られた後にできることをご覧ください。
入居者付きで相続したときの2つの出口
ここまでを踏まえると、入居者がいる文化住宅・長屋の出口は、実質的に2つです。
出口①:立退きを済ませて更地にしてから売る
まず、貸主の側から「出ていってください」と言うには要件があります。借地借家法にはこう定められています。
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。(借地借家法28条)
出典:e-Gov法令検索「借地借家法」(2026年8月24日確認)
条文が「財産上の給付をする旨の申出」を正当事由の考慮要素として挙げています。これが、実務でいう立退き料です。金額そのものを法律が決めているわけではなく、事情を総合して判断されます。
立退き料の内訳の考え方と、複数戸をまとめて退去させる場合の総額の見立てはアパートの立退き料相場に整理していますので、そちらをご覧ください。
この出口を選ぶ場合、必要になる時間と費用は次のようになります。
- 全戸の退去交渉と立退き料の支払い(戸数分)
- 残置物の撤去(補助の対象外)
- 解体補助の事前相談・申請(着工の40日以上前)
- 交付決定を待つ(40日程度)
- 解体工事・完了報告・補助金請求
- 更地の売却
1戸でも交渉がまとまらなければ、3以降がすべて止まります。文化住宅は戸数が多く、長く住んでいる高齢の入居者がいることも珍しくありません。ここが読めないのが、この出口の最大の難しさです。
出口②:入居者が住んだまま現況で売る
賃貸借契約をそのまま引き継ぎ、所有者だけが変わる売り方です。立退き交渉も残置物の撤去も解体もしませんので、持ち出しがなく、期間も読めます。
2つを並べると次のようになります。
| ①立退き→更地にして売る | ②入居者付きのまま現況で売る | |
|---|---|---|
| 先に出ていくお金 | 立退き料(戸数分)+残置物撤去+解体費(補助を差し引いた額) | なし |
| 解体補助 | 使える可能性がある(全戸退去と同意が前提) | 使わない |
| 期間 | 交渉次第。読めない | 短い |
| 売却価格 | 更地としての評価 | 建物の状態と家賃収入で評価 |
| 手残り | うまく運べば大きい。ただし交渉が長引くほど目減りする | 小さいが確定している |
| 途中で止まるリスク | 1戸でもまとまらないと全体が止まる | なし |
| 向いている方 | 手元資金と時間があり、地元で交渉に関われる方 | 遠方にお住まいの方・早く負担を手放したい方・交渉を抱えたくない方 |
①のほうが手残りが大きくなる可能性はありますが、それは全戸の退去がまとまった場合の話です。途中で止まったまま数年が過ぎ、その間も固定資産税と管理の負担が続く、という経過をたどることがあります。大阪市内の買取価格の傾向は大阪市24区の買取データでご確認いただけます。
宅建業者の視点
西成区の6戸の文化住宅を相続された、東京にお住まいの方からのご相談です。当初は「全員に出ていってもらって更地にして売る」とお考えでした。ところが調べていくと、4戸は空き、2戸に20年以上お住まいの高齢の方が残っていて、うち1戸は家賃が長く据え置きのままでした。更地にすれば確かに高く売れますが、東京から交渉に通う交通費と時間、立退き料、残置物の撤去費、そして「まとまらなかったらどうなるか」を並べて計算し直しました。最終的には入居者2世帯が住んだままの状態で買い取らせていただき、ご相談から決済まで6週間でした。手残りは更地案より小さくなりましたが、「いつ終わるかわからない交渉を抱えずに済んだ」ことを選ばれた形です。どちらが正しいという話ではなく、ご自身が時間と交渉を引き受けられるかどうかで決まります。
動き出す前に確認していただきたい3つ
査定を頼む前に、この3つを押さえておくと話がまっすぐ進みます。
1. 登記事項証明書(法務局)
一戸ごとの区分所有なのか、一棟の建物なのかを確認します。共有名義になっていないか、相続登記が済んでいるかもここでわかります。相続登記は2024年4月1日から義務化されていますので、未了の場合は相続登記の義務化と3年ルールもあわせてご確認ください。
2. 前面道路の種別と接道の幅(大阪市計画調整局)
建築基準法上の道路かどうか、幅員はいくつか、敷地が2m以上接しているか。ここで再建築の可否が決まります。窓口で無料で確認できます。更地にしてから「建てられない土地だった」と判明する順番だけは避けてください。
3. 賃貸借契約書と入居状況
何戸に誰が住んでいるか、家賃はいくらか、契約はいつからか。契約書が見つからないことは珍しくありませんが、契約書がなくても借主の権利は消えません。被相続人の預金通帳の入金記録と、確定申告書の不動産所得の欄が手がかりになります。
よくある質問
Q. 長屋の一戸だけ相続しました。隣の家と話をつけないと売れませんか。
区分所有建物として登記されていれば、その一戸だけを単独で売却できます。ただし壁を壊す切り離しを伴う場合は隣戸所有者の同意が必要です。現況のまま売る分には、隣戸の同意は要りません。詳しくは大阪市の長屋は切り離せる?をご覧ください。
Q. 一部の戸だけ空いていて、一部に人が住んでいます。どう扱われますか。
実務ではよくある形です。空いている戸と入居中の戸で扱いが分かれ、解体補助については入居者の同意が必要になります。査定の際は「何戸中何戸が空きか」を最初にお伝えいただくと、前提の揃った金額をお出しできます。
Q. 家賃が何十年も据え置きです。上げてから売ったほうが有利ですか。
賃料の増額には交渉か調停・訴訟が必要で、時間がかかります。売却までの期間を考えると、そのために着手するかどうかは慎重にご判断ください。ご事情によっては、増額交渉より先に出口を決めたほうが総額で有利になることもあります。
Q. 相続放棄をすれば、この文化住宅の管理から解放されますか。
相続放棄をしても、状況によっては管理に関する責任が残る場合があります。入居者がいる建物ではさらに事情が複雑になりますので、判断の前に弁護士・司法書士へご相談ください。
Q. 建物が古すぎて価値がゼロだと言われました。土地だけの値段になりますか。
更地としての評価から解体費相当を差し引く考え方が一般的ですが、入居者がいる場合は家賃収入も評価に入ります。建物が古いこと自体は、当社が買取をお断りする理由にはなりません。
まとめ
- 大阪市の長屋建は令和5年で3万1,200戸、5年で31.9%減りました。生野区6.5%・西成区5.8%・東住吉区4.9%に偏って残っており、この3区で市内の36.6%を占めます(当社試算)
- 「文化住宅」は通称で、法律用語でも統計用語でもありません。各戸が別々に外へ出入りするなら長屋建、廊下・階段を共用するなら共同住宅で、共同住宅は建築基準法2条2号の特殊建築物にあたります
- 大阪府の長屋建は借家42.5%が持ち家40.1%を上回ります。相続した時点で他人が住んでいる可能性が高い建物です
- 大阪市の狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度は、賃貸住宅について「入居者の同意が得られたものに限る」と定めています。入居者が住んだままでは補助の申請ができません
- 大阪府の長屋建の41.3%が昭和55年以前の建築です(当社試算)。旧耐震と接道不足が重なりやすく、買い手が現金客に限られます
- 出口は「立退き→更地」か「入居者付きのまま現況で売る」かの二択です。前者は手残りが大きくなり得ますが、1戸でも交渉がまとまらないと全体が止まります
長屋・文化住宅は、一戸建てを相続したときの感覚がそのまま通じない建物です。ただ、確認する順番さえ間違えなければ、取れる選択肢はかなり早い段階で絞り込めます。登記のかたち、前面道路、入居状況。この3つがわかれば、話は前に進みます。
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出典(2026年8月24日確認)
- 大阪市「令和5年住宅・土地統計調査」(大阪市の建て方別住宅数・24区別内訳)
- 大阪府「令和5年住宅・土地統計調査」/結果の概要(PDF)(大阪府の建て方別・所有関係別・建築時期別住宅数)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 用語の解説」(住宅の建て方の定義)
- 大阪市「狭あい道路沿道老朽住宅除却促進制度」(対象要件・補助率・限度額・申請手続)
- e-Gov法令検索「建築基準法」(2条2号 特殊建築物の定義)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(28条 建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
- 住宅金融支援機構「【フラット35】中古住宅の技術基準の概要」(接道・耐震評価基準)
画像クレジット: 冒頭「文化住宅」by Akiyoshi's Room(Wikimedia Commons, パブリックドメイン)/本文「天満橋文化住宅」by m-louis .®(Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)/本文「Narrow alley - Osaka」by mrhayata(Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)/グラフ・図版は空き家のミカタ編集部作成。