相続放棄すれば空き家から解放される?民法940条の保存義務と清算人の予納金・代執行費用の実額【2026年版】
Q: 相続放棄をすれば、実家の空き家の管理からは解放されますか。
A: 全部が消えるわけではありません。2023年4月施行の改正民法第940条により、放棄の時にその空き家を「現に占有」していた方には保存義務が残ります。義務を完全に切るには相続財産清算人の選任が必要で、収入印紙800円・官報公告料5,582円に加えて数十万円〜100万円規模の予納金を求められることがあります。放棄しても登記名義は被相続人のまま動きません。
「借金もないし価値もない実家だから、相続放棄しておけば終わりですよね」——このご相談を、大阪市内の空き家について毎月いただきます。
結論からお伝えします。相続放棄は「財産を引き継がない」手続きであって、「空き家をこの世から消す」手続きではありません。放棄をしても、その家は物理的にそこに建ち続けます。誰が管理するのか、誰が解体費を負担するのか、誰が敷地を処分するのかという問題は、放棄では解決しません。
司法統計によると、相続放棄の申述受理件数は令和6年(2024年)に約30万9千件となり、20年前の約3倍に増えました。放棄が「例外的な選択肢」ではなくなった一方で、放棄した後に何が残るのかを知らないまま申述してしまい、後から困る方が増えているのが実情です。
この記事では、放棄しても残るもの・残らないものを条文レベルで整理し、義務を完全に切るための費用と期間、そして放棄と現況買取の手残りの違いを、宅地建物取引業者の立場からお伝えします。
目次
- 「放棄すれば解放される」がなぜ誤解なのか
- 民法940条の保存義務|2023年4月改正で変わった点
- 「現に占有している」とはどういう状態か
- 義務を完全に切るには相続財産清算人が必要
- 全員が放棄した空き家が代執行されたら費用はどうなるか
- 相続放棄と現況買取、手残りはどう違うか
- 3か月の熟慮期間を使い切るためのカレンダー
- よくある質問
「放棄すれば解放される」がなぜ誤解なのか {#誤解}
相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われます(民法第939条)。ここまでは多くの方がご存じのとおりです。
問題は、その効果が及ぶ範囲です。放棄で消えるのは「相続する権利と義務」であって、すでに存在している建物・土地・近隣への影響は消えません。整理すると次のようになります。
| 相続放棄で | 消えるもの | 残るもの |
|---|---|---|
| 財産の承継 | 不動産・預貯金を引き継ぐ権利 | — |
| 借金 | 被相続人の債務を負う義務 | — |
| 固定資産税 | 放棄後に課される納税義務 | 賦課期日の関係で通知が届くことがある |
| 建物の管理 | — | 放棄時に現に占有していれば保存義務(民法940条) |
| 登記名義 | — | 被相続人名義のまま動かない |
| 近隣・行政との関係 | — | 建物が存在する限り続く |
とくに見落とされるのが下の3行です。
登記名義は自動では変わりません。相続放棄をしても、法務局が名義を書き換えてくれるわけでも、国が引き取ってくれるわけでもありません。被相続人名義のまま、その家は建ち続けます。市区町村が近隣からの苦情を受けて所有者を調べたとき、最初に出てくるのはその登記名義です。
固定資産税の通知が届くことがあります。固定資産税は毎年1月1日(賦課期日)時点の所有者に課税されます。名義が被相続人のままだと、市区町村が法定相続人を「現に所有している者」として把握し、納税通知書を送ってくることがあります。放棄が有効に受理されていれば納税義務はありませんので、市税事務所に相続放棄申述受理通知書の写しを提出して手続きをしてください。放置すると督促が続きます。
固定資産税そのものの扱いは空き家の固定資産税が払えないとき|分納・減免・売却・相続放棄の4つの選択肢でも整理しています。
民法940条の保存義務|2023年4月改正で変わった点 {#940条}
ここが本題です。2023年4月1日施行の改正民法により、第940条の内容が大きく変わりました。
改正後の条文
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。 (民法第940条第1項)
改正前後の比較
| 改正前(〜2023年3月) | 改正後(2023年4月〜) | |
|---|---|---|
| 義務の呼び方 | 管理義務 | 保存義務 |
| 義務を負う人 | 放棄した人(占有の有無を問わない解釈が有力) | 放棄の時に現に占有している人に限定 |
| いつまで | 次順位の相続人が管理を始められるまで | 相続人または相続財産の清算人に引き渡すまで |
| 求められる水準 | 自己の財産におけるのと同一の注意 | 自己の財産におけるのと同一の注意(現状維持・滅失毀損の防止で足りる) |
改正のポイントは2つです。
1つめは、義務を負う人が絞られたこと。改正前は「放棄した以上、次の人が決まるまでは管理を続けなさい」という建て付けで、遠方に住んでいて一度も立ち入っていない相続人まで責任を問われかねない構造でした。改正後は、放棄の時点で現に占有している人に限定されています。
2つめは、義務の中身が「保存」に整理されたこと。求められるのは財産の現状を維持し、滅失や毀損を防ぐ程度の行為です。積極的な活用・改良・修繕といった高度な管理までは求められません。とはいえ「何もしなくていい」という意味ではありません。
保存義務を怠るとどうなるか
保存義務を負う立場にありながらこれを怠り、第三者に損害を与えた場合は、損害賠償責任を問われる可能性があります。よく挙げられるのが、屋根瓦や外壁材が落下して隣家の車や建物を傷つけた、というケースです。
「放棄したのだから自分には関係ない」と思って施錠も見回りもしていなかった空き家が、台風で飛散して隣家に当たった——このとき、放棄の時点で鍵を持ち出入りしていた方が保存義務を負っていたと評価されると、賠償の話になり得ます。
台風・隣家被害と保険の関係は相続した空き家が台風で隣家に被害|賠償責任と火災保険の落とし穴で扱っています。
「現に占有している」とはどういう状態か {#現に占有}
条文の分かれ目はここ一点です。「現に占有」とは、その財産を事実上支配・管理している状態を指します。
| 占有にあたると考えられる例 | 占有にあたらないと考えられる例 |
|---|---|
| 被相続人と同居しており、放棄後もその家に住み続けている | 何十年も別居しており、家の鍵も持っていない |
| 建物の鍵を持っていて、定期的に様子を見に行っている | 遠方の山林・空き家で、立ち入った実績がない |
| 自分の荷物を置いている、家財の一部を使っている | 名義人であることを最近知ったばかりで一度も行っていない |
| 水道・電気の契約者になっている | 契約関係も一切なく、管理も業者任せにしたこともない |
ご注意いただきたいのは、条文が「その放棄の時に」と時点を切っていることです。判断の基準になるのは、家庭裁判所に申述して受理された時点の事実関係です。
そのため、次のような順序は避けたほうが安全です。
- 放棄するつもりで、先に家財の片付けや鍵の預かりを始めてしまう
- 「とりあえず管理しておこう」と水道を自分名義に切り替える
これらは占有を作りにいく行為になり得ます。さらに深刻なのは、家財の処分や売却が「単純承認」とみなされて相続放棄そのものができなくなる可能性がある点です(民法第921条)。放棄を検討している段階では、片付けにも手をつけないでください。
残置物をどう扱うかの整理は空き家の残置物は片付けなくていい|現況買取で処分費を払わない選び方にまとめています。
義務を完全に切るには相続財産清算人が必要 {#清算人}
条文をもう一度見てください。保存義務が終わるのは「相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」です。つまり、引き渡し先がなければ義務は終わりません。
次順位の相続人が相続を承認してくれるなら、その方に引き渡せば終わります。問題は相続人全員が放棄して誰もいなくなったときです。この場合、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる(民法第952条第1項)ほかに、引き渡し先を作る方法がありません。
申立ての枠組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 申立てができる人 | 利害関係人または検察官 |
| 収入印紙 | 800円 |
| 官報公告料 | 5,582円(家庭裁判所の指示があってから納付) |
| 郵便切手 | 裁判所ごとに異なる(申立先の裁判所に要確認) |
| 予納金 | 清算人の報酬を含む費用に不足が出る可能性がある場合に納付を求められる |
大阪市内の物件で、被相続人が大阪市内にお住まいだった場合は大阪家庭裁判所(大阪市中央区大手前)が申立先になります。
予納金は「数十万円〜100万円規模」
多くの方が驚かれるのがこの予納金です。裁判所は次のように説明しています。
相続財産の内容から、相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用(相続財産清算人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、相続財産清算人が円滑に事務を行うことができるように、申立人に相当額を予納金として納付していただくことがあります。 (出典:裁判所「相続財産清算人の選任」)
金額は事案ごとに家庭裁判所が決めるため、申立ての前には確定しません。大阪家庭裁判所を含め、公表された固定額はありません。実務上の目安としては20万円〜100万円程度とされ、換価しにくい空き家しか財産がない事案ほど高くなる傾向があります。原則として申立て後1か月以内の納付を求められます。
予納金は清算人の報酬や管理費用に充てられます。相続財産の中から報酬をまかなえた場合、余った分は申立人に返還されます。逆に言えば、売れない空き家しかない事案では、納めた予納金はほぼ戻ってきません。
期間は最短6か月(2023年4月改正で短縮)
手続きにかかる期間も改正で変わりました。
| 改正前(〜2023年3月) | 改正後(2023年4月〜) | |
|---|---|---|
| 名称 | 相続財産管理人 | 相続財産清算人 |
| 公告の構成 | 選任公告(2か月)→ 債権申出公告(2か月)→ 相続人捜索公告(6か月以上)を順次 | 選任・相続人捜索の公告(6か月以上)と債権申出公告(2か月以上)を並行 |
| 権利確定までの目安 | 10か月以上 | 最短6か月 |
短縮されたとはいえ、申立ての準備(戸籍の収集)に1〜2か月、選任後の清算に6か月以上ですから、着手から終わりまで1年近くを見ておくのが現実的です。
申し立てない、という判断もある
ここが実務上の分かれ道です。放棄の時に占有しておらず、保存義務を負っていないなら、あえて清算人の選任を申し立てないという判断もあり得ます。数十万円の予納金を自腹で払い、返ってこない可能性が高いのに、義務を負っていない人が申し立てる必要は必ずしもありません。
一方で、占有していて保存義務を負っている方は、引き渡し先を作らない限り義務が続きます。この場合は費用を払ってでも清算人を立てる意味があります。
ご自身がどちらの立場かで結論が正反対になります。だからこそ、放棄の申述をする前に「自分は占有しているか」を確認しておく必要があるのです。
全員が放棄した空き家が代執行されたら費用はどうなるか {#代執行}
相続人全員が放棄し、清算人も立てられないまま放置された空き家は、いずれ行政の対象になります。
2023年12月の空家法改正で網が広がった
2023年(令和5年)12月13日、空家等対策の推進に関する特別措置法の改正法が施行されました。改正の柱は「悪化する前に手を打つ」仕組みの創設です。
| 区分 | 状態 | 勧告を受けると |
|---|---|---|
| 管理不全空家等(2023年改正で新設) | そのまま放置すれば特定空家等になるおそれのある状態 | 住宅用地の固定資産税特例が解除される |
| 特定空家等 | 倒壊等著しく保安上危険、著しく衛生上有害、著しく景観を損なう等 | 住宅用地の固定資産税特例が解除される/命令・代執行の対象 |
住宅用地特例が外れると、小規模住宅用地で6分の1に軽減されていた課税標準が元に戻ります。放置していただけで固定資産税の負担が数倍になるということです。詳しくは空き家の固定資産税が6倍になる条件と実額比較をご覧ください。
大阪市の担当窓口は計画調整局 建築指導部 建築企画課(大阪市北区中之島1丁目3番20号・大阪市役所3階/電話06-6208-8759)です。各区役所にも空家相談窓口が設けられています。
代執行と略式代執行で費用の流れが違う
| 行政代執行 | 略式代執行 | |
|---|---|---|
| 前提 | 所有者等が判明しており、命令に従わない | 所有者等を確知できない |
| 費用の一次負担 | 行政が立て替える | 行政が負担する |
| 回収方法 | 行政代執行法第6条により国税滞納処分の例で強制徴収(財産の差押え・公売もあり得る) | 後に所有者等が判明すればその者に負担させる。判明しない場合は財産管理制度の活用 |
相続人全員が放棄した空き家は、多くの場合この「略式代執行」の枠組みで処理されます。所有者である被相続人はすでに亡くなり、相続人は全員放棄していて存在しない、という状態だからです。
「請求書は来ないが、土地は残らない」
では費用は誰が負担するのか。実務では次の流れが取られています。
- 市区町村が略式代執行で建物を除却し、費用をいったん公費で負担する
- 市区町村が利害関係人として家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる
- 選任された清算人が更地になった敷地を売却する
- 売却代金から、除却費用や清算人の報酬が回収される
つまり、放棄した元相続人のもとに請求書が届くのではなく、土地そのものが費用に充てられる形になります。手元には何も残りません。
ここで冷静に見ていただきたいのが、この結末と「放棄せずに現況のまま売る」場合の差です。土地に値が付く物件であれば、代執行を経て行政が回収するのと同じ財源を、ご自身の手残りとして受け取れた可能性があります。
行政処分の全体像は空き家の行政処分マップ2026|助言・指導から代執行までの流れにまとめています。
相続放棄と現況買取、手残りはどう違うか {#手残り比較}
ここまでの内容を、お金の動きとして1枚に並べます。大阪市内の築50年・木造戸建て(土地60平方メートル)を相続したケースを想定した比較例です。金額はあくまで仕組みを説明するための計算例で、実際の査定額・費用は物件により変わります。
| ①相続放棄のみ(清算人を立てない) | ②相続放棄+清算人選任 | ③相続して現況のまま買取 | |
|---|---|---|---|
| 初期の出費 | 収入印紙800円+戸籍取得費(数千円) | ①+官報公告料5,582円+予納金 数十万〜100万円 | なし |
| 解体・片付け費 | 不要 | 不要(清算人が判断) | 不要(買主が対応) |
| 期間 | 申述から1〜2か月 | 準備+清算で1年前後 | 数日〜数週間 |
| 保存義務 | 占有していれば残る | 引き渡した時点で終わる | 所有者として負う(売却で終わる) |
| 固定資産税 | 放棄後は原則なし(通知は届き得る) | 同左 | 売却の日まで負担 |
| 手残り | 0円 | マイナス(予納金が戻らない場合) | 売却代金がそのまま手残り |
| 向いている方 | 負債が多い/占有していない | 占有しており義務を確実に切りたい | 土地に値が付く見込みがある |
相続放棄が正しい選択になるのは、負債が資産を上回るときです。被相続人に借金や滞納税があり、不動産の価値を差し引いてもマイナスなら、放棄は合理的です。
一方で、実際にご相談をいただく大阪市内の空き家では、③のほうが手残りが大きいケースが少なくありません。建物が古くても、大阪市24区内の土地であれば需要があるためです。「古いから0円だろう」という思い込みで放棄してしまい、後から土地が売れたことを知る——これが一番もったいないパターンです。
放棄は一度受理されると撤回できません(民法第919条第1項)。だからこそ、申述する前に査定の数字を持っておいてください。査定を受けること自体は、相続財産の処分(単純承認とみなされる行為)にはあたりません。
持ち続けた場合のコストは相続した家を5年持ち続けるといくらかかるか|費用フローチャートで試算しています。
相続土地国庫帰属制度は代わりにならない
「放棄がだめなら国に引き取ってもらえばいい」と考える方がいらっしゃいますが、この制度は空き家の出口にはなりません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請できる人 | 相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した方 |
| 相続放棄した人 | 申請できない(土地を取得していないため) |
| 建物がある土地 | 却下事由(申請そのものができない) |
| 審査手数料 | 土地一筆あたり14,000円(却下・不承認でも返還されない) |
| 負担金 | 10年分の標準的な管理費用相当額(宅地は原則20万円) |
空き家が建ったままの土地は、そもそも申請の入口に立てません。使うには先に解体して更地にする必要があり、その解体費を負担できるなら、更地で売却したほうが手残りが出る場合もあります。
3か月の熟慮期間を使い切るためのカレンダー {#カレンダー}
相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内(民法第915条第1項)です。この3か月を、感覚ではなくカレンダーで管理してください。
| 時期 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 0〜2週目 | 起点の日を確定し、3か月後の日付をカレンダーに記入する。被相続人の除籍謄本・住民票除票の取り寄せを開始 | 戸籍は本籍地の役所へ郵送請求。2〜4週間かかることがある |
| 2〜4週目 | 負債の調査(信用情報機関への開示請求、督促状・請求書の確認、固定資産税の滞納の有無を市税事務所で確認) | ここで負債が資産を上回るかを見る |
| 4〜6週目 | 不動産の査定を取る。同時に「自分はこの家を現に占有しているか」を書き出して確認する | 査定は無料。片付け・解体はしない |
| 6〜8週目 | 数字が揃った段階で、放棄・単純承認・限定承認を比較して決める。放棄なら他の相続人にも意向を確認 | 全員放棄の見込みなら清算人の申立て役を決めておく |
| 8〜10週目 | 家庭裁判所へ申述書を提出(放棄する場合)/売却へ動く(相続する場合) | 収入印紙800円・郵便切手は裁判所へ確認 |
| 10〜12週目 | 間に合わない見込みなら、期限内に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる | 期限を過ぎてからでは原則手遅れ |
この期間中にやってはいけないこと
次の行為は単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります(民法第921条)。
- 不動産や家財の売却・処分
- 家財を持ち帰る、形見分けとして分配する
- 被相続人名義の預貯金を引き出して使う
- アパートの賃料を受け取る
- 被相続人の債務を相続財産から弁済する
「とりあえず片付けておこう」が一番危ない行為です。迷っている段階では、鍵をかけて手を触れないでおいてください。
期限を過ぎてしまった場合の対処は相続放棄の期限(3ヶ月)を過ぎたらどうなる?期限切れ後の対処法で解説しています。
よくある質問 {#faq}
Q. 相続放棄をしたのに、市役所から「管理してください」と連絡が来ました。従う必要がありますか。
A. まず相続放棄申述受理通知書の写しを提出して、放棄の事実を伝えてください。そのうえで、ご自身が放棄の時にその家を現に占有していたかどうかで結論が変わります。占有していなければ民法940条の保存義務は負いません。占有していた場合は、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまで保存義務が続きます。行政側も改正内容を踏まえて対応しますので、まず事実関係を整理して伝えることが先決です。
Q. 兄弟のうち自分だけが放棄しました。空き家はどうなりますか。
A. 放棄しなかったご兄弟が相続します。放棄した方は初めから相続人でなかったものとして扱われるため、法定相続分は残った相続人に配分されます。この場合、引き渡し先となる相続人が存在しますので、清算人の選任は必要ありません。ただし共有になると全員の合意がなければ売却できません。共有物件の進め方は共有持分は兄弟に内緒で査定できる?話がつかないときの法的3ルートをご覧ください。
Q. 相続人全員が放棄すると、空き家は自動的に国のものになりますか。
A. 自動的にはなりません。相続財産清算人が選任され、債権者への弁済や換価の手続きを経て、なお残った財産があれば最終的に国庫に帰属します。清算人が選任されないままなら、被相続人名義の建物がそのまま残り続けます。「放棄すれば国が引き取る」という理解は、途中の手続きと費用が抜け落ちています。
Q. 予納金を払えません。ほかに方法はありますか。
A. 選択肢は3つあります。1つめは、ご自身が保存義務を負っていないなら申し立てない。2つめは、他の利害関係人(債権者や市区町村)が申し立てるのを待つ。3つめは、そもそも放棄せずに相続して売却し、その代金で整理する方法です。3つめは、土地に値が付く物件であれば予納金を払うより手残りが残ります。放棄を決める前に査定を取っておくのは、この選択肢を残しておくためでもあります。
Q. 相続放棄をした後でも、不動産を売ることはできますか。
A. できません。放棄した方は所有者ではないため、売買契約の当事者になれません。仮に売却してしまえば単純承認とみなされ、放棄の効力自体が争われる可能性があります。売るなら放棄する前、という順序だけは動かせません。
Q. 被相続人が大阪市内に住んでいて、空き家は別の府県にあります。どこの裁判所ですか。
A. 相続放棄の申述も相続財産清算人の選任も、申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。物件の所在地ではありません。被相続人が大阪市内にお住まいだったなら、物件が他府県にあっても大阪家庭裁判所が窓口になります。
Q. アパートを相続放棄しました。入居者への対応はどうなりますか。
A. 居住者がいる建物は、空き家とは別の配慮が必要です。詳しくは相続放棄したアパートの入居者はどうなる?管理責任と手続きで解説しています。
まとめ
- 相続放棄は「財産を引き継がない」手続きであって、空き家という物理的な問題を消す手続きではありません。登記名義は被相続人のまま動きません
- 2023年4月施行の改正民法第940条により、保存義務を負うのは放棄の時にその財産を現に占有していた人に限定されました。鍵の所持・出入り・契約名義が判断材料になります
- 義務が終わるのは相続人または相続財産の清算人に引き渡した時です。全員放棄なら家庭裁判所への清算人選任申立てが必要で、収入印紙800円・官報公告料5,582円のほか数十万〜100万円規模の予納金を求められることがあります。金額は事案ごとに裁判所が決めます
- 2023年4月の改正で公告が並行化され、権利確定まで最短6か月(改正前は10か月以上)に短縮されました。それでも着手から終了まで1年前後を見ておくのが現実的です
- 全員が放棄した空き家は略式代執行で除却され、行政が清算人を立てて敷地の売却で費用を回収する流れが取られています。請求書は届かない代わりに、土地も残りません
- 土地に値が付く物件なら、放棄より現況買取のほうが手残りが残るケースがあります。放棄は一度受理されると撤回できません。申述の前に査定の数字を持ってください
- 相続土地国庫帰属制度は、放棄した人は申請できず、建物がある土地は却下されます。空き家の代替手段にはなりません
「価値がないから放棄」と決める前に、数字を1つだけ持ってください
相続放棄でいちばんもったいないのは、売れる土地だったのに「古い家だから0円だろう」と思い込んで手放してしまうことです。放棄は撤回できません。後から土地に値が付いたと知っても、戻せません。
いま確認できることは3つです。ご自身がその家を現に占有しているか、被相続人に負債があるか、そして土地にいくら付くか。この3つが揃えば、放棄すべきか相続して売るべきかは、感覚ではなく数字で決められます。
査定は無料です。残置物の片付けも、解体も、測量も、事前にしていただく必要はありません。現況のままで構いません。むしろ相続放棄を検討中の方は、片付けや処分に手をつけないでください。単純承認とみなされて放棄ができなくなるおそれがあります。資料が手元になくても、物件の所在地が分かれば登記や公図はこちらで調べられます。
大阪を中心に、兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山の物件のご相談に対応しています。買取の可否・条件は所在地と物件の状況を確認してご案内します。上記の対応地域外の物件は買取・査定の対象外です。対応地域外の物件は、物件所在地の不動産会社へご相談ください。
相談無料・秘密厳守。査定後にお断りいただいても問題ありません。放棄を選ばれる場合でも、判断材料としてお使いいただければ十分です。
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出典・参考
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第915条第1項(熟慮期間3か月)、第919条第1項(承認・放棄の撤回禁止)、第921条(法定単純承認)、第939条(放棄の効力)、第940条第1項(相続の放棄をした者による管理=現に占有しているときの保存義務・2023年4月1日施行)、第952条第1項(相続財産の清算人の選任)
- 裁判所「相続財産清算人の選任」(申立先=被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、収入印紙800円、官報公告料5,582円、郵便料は裁判所ごとに異なる、予納金の納付を求められる場合がある旨)
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- 最高裁判所事務総局「令和6年司法統計年報(3 家事編)」(相続の放棄の申述の受理件数)
- e-Gov法令検索「行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)」第6条(代執行に要した費用は国税滞納処分の例により徴収することができる)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」(令和5年12月13日施行、管理不全空家等の新設、勧告による住宅用地特例の解除)
- 大阪市「大阪市の空家等対策について」(担当=計画調整局建築指導部建築企画課 06-6208-8759、助言・指導・勧告・命令・代執行等の行政措置、各区役所の空家相談窓口)
- 大阪市「特定空家等に対する措置その他の特定空家等への対処に関する指針」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」(申請権者=相続又は相続人に対する遺贈により土地を取得した者、建物がある土地は却下事由、審査手数料は土地一筆あたり14,000円)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」(国有地の種目ごとの管理に要する10年分の標準的な費用相当額)
- 国土交通省近畿地方整備局 建政部住宅整備課「事例から見る 空き家の行政代執行の実務」(略式代執行後に財産管理制度を用いて費用回収を図る運用)
保存義務の有無、単純承認にあたるかどうか、期間伸長が認められるかどうかは、事実関係によって結論が変わります。法的な判断は弁護士へ、相続放棄の申述手続は司法書士または弁護士へ、税額と非課税・特例の適用は市税事務所または税理士へご確認いただくのが確実です。予納金の額は家庭裁判所が事案ごとに決定するもので、本記事に記載した金額は公表資料および一般に示されている目安です。本記事の費用・期間の数値は仕組みを説明するための計算例および一般的な目安であり、買取価格・期間は個別の物件により変わります。結果を保証するものではありません。