相続税の不動産評価額|「時価−取得費」ではない正しい算定【2026年版】
「実家は今売れば4,500万円くらい。父が買ったのが3,000万円だから、差額の1,500万円に相続税がかかるんですよね」——このご質問を、私たちは年に何度もお受けします。
結論から申し上げますと、その計算式は相続税のものではありません。
この記事では、混同されやすい「相続税の評価額」と「譲渡所得税の計算」を切り分けたうえで、相続税の不動産評価額を実際にどう出すのか、そして評価額が低いことと売れることは別問題であるという現場の話まで整理します。
相続税の不動産評価額は、路線価と固定資産税評価額で決まります
国税庁タックスアンサーNo.4602「土地家屋の評価」は、相続税・贈与税を計算するときの土地と家屋の評価方法を次のように定めています。
土地は「路線価方式」か「倍率方式」のどちらかです
土地は、原則として宅地・田・畑・山林などの地目ごとに評価します。そのうえで、評価方法は2つに分かれます。
路線価方式は、路線価が定められている地域の土地を評価する方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことで、路線価図には千円単位で表示されています。計算は次のとおりです。
路線価 × 奥行価格補正率などの各種補正率 × 地積 = 土地の評価額
倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地を評価する方法です。こちらは次のように計算します。
土地の固定資産税評価額 × 評価倍率表に定められた倍率 = 土地の評価額
大阪市内のような市街地の宅地は、ほとんどが路線価方式の対象です。路線価図で「倍率地域」と記載されている場合は、その市区町村の評価倍率表を見ることになります。
家屋は「固定資産税評価額 × 1.0」です
家屋の評価は、拍子抜けするほど単純です。国税庁は「固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額によって評価します。したがって、その評価額は固定資産税評価額と同じです」としています。
つまり、毎年市区町村から届く固定資産税の課税明細書に書かれている「価格」が、そのまま相続税評価額になります。建てたときの工事費や、リフォームにかけた金額から計算するものではありません。
なお課税明細書には「価格(評価額)」と「課税標準額」の2つの数字が並んでいます。住宅用地の特例などで減額されているのは後者です。相続税で使うのは「価格」のほうですので、ここは取り違えないようご注意ください。課税明細書の読み方は固定資産税の通知書が届いたら確認すべき5項目チェックリストで詳しく解説しています。
使うのは「亡くなった年分」の路線価図です
路線価は毎年更新されます。国税庁は令和8年分の路線価等について、1月1日を評価時点として1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めていると説明しています。公開は毎年7月です。
使うのは、相続が開始した年分(被相続人が亡くなった年分)の路線価図です。売却する年の路線価ではありません。1月に亡くなった場合、その年分の路線価が公表されるのは7月ですので、それまでは正確な評価額が出せないという事情もあります。
地積は登記簿の面積ではなく「実際の面積」です
見落とされやすいのが地積(面積)です。国税庁は「宅地の地積(面積)は、課税時期における実際の面積で評価します。このため、評価する宅地の地積(面積)が、登記簿の地積(実測の地積)と異なる場合には、実際の面積により評価することとなります」としています(No.4602 質疑応答、評価通達8)。
古い土地では、登記簿の面積と実測が食い違う「縄伸び・縄縮み」が珍しくありません。登記簿より実際が広ければ、評価額もその分上がります。境界が確定していない相続不動産については、測量していない相続不動産の売却もあわせてご覧ください。
「時価−取得費」は、売ったときの税金の計算式です
冒頭のご質問が生まれる理由は、はっきりしています。相続した不動産を売る方は、相続税と譲渡所得税という性質の違う2つの税金に、短い期間で続けて向き合うことになるからです。
2つを並べると、違いが見えます。
| 相続税 | 譲渡所得税 | |
|---|---|---|
| 何にかかるか | 相続した財産そのもの | 売って出た利益(もうけ) |
| 不動産の金額の出し方 | 土地=路線価方式・倍率方式 家屋=固定資産税評価額×1.0 |
売った金額 −(取得費+譲渡費用) |
| 取得費(買った値段) | 使わない | 使う |
| 売らなくてもかかるか | かかる(持ったままでも課税) | かからない(売らなければ課税なし) |
| 期限 | 死亡を知った日の翌日から10か月 | 売った年の翌年2月16日〜3月15日 |
| 根拠 | 国税庁No.4602・No.4152 | 国税庁No.3202 |
相続税は「財産を受け取ったこと」に対する税金です。売って利益が出たかどうかは関係ありません。だから取得費は登場しません。
譲渡所得税は「売って利益が出たこと」に対する税金です。利益を出すには元手を引く必要があるので、ここで初めて取得費が登場します。
実際には、2つが続けて発生することがあります
相続したアパートや実家を売る場合、順番はこうなります。
- 相続開始 → 10か月以内に相続税の申告・納付(財産の評価額をもとに計算)
- その後に売却 → 翌年の確定申告で譲渡所得税(売却代金から取得費等を引いて計算)
この2つを1つの計算式に混ぜてしまうのが、冒頭のご質問の正体です。「差額の1,500万円に相続税」という発想は、相続税の課税対象を4,500万円ではなく1,500万円だと思い込むことになり、申告の要否判断そのものを誤らせます。
なお、相続税を納めた方が一定期間内に売却した場合、納めた相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる特例があります(取得費加算の特例)。2つの税がまったく無関係というわけではなく、順番に効いてくるとお考えください。譲渡所得税の側の論点は相続不動産の譲渡所得税|5年の起算日と取得費不明の対処にまとめています。
実際に計算してみます(大阪市内の自宅を相続した場合)
数字を入れてみます。前提を単純化した仮の例です。
前提
- 大阪市内の普通住宅地区、路線価250千円/平方メートル
- 地積160平方メートル、奥行価格補正率は1.00と仮定
- 家屋の固定資産税評価額 480万円
- 被相続人(父)が1995年に3,000万円で購入
- 現在の売却見込みは4,500万円程度
相続税評価額の計算
| 区分 | 計算 | 評価額 |
|---|---|---|
| 土地 | 250,000円 × 1.00 × 160㎡ | 4,000万円 |
| 家屋 | 480万円 × 1.0 | 480万円 |
| 合計 | 4,480万円 |
購入価格の3,000万円は、この計算のどこにも出てきません。売却見込みの4,500万円も使いません。使うのは路線価と固定資産税評価額だけです。
この4,480万円が、預貯金など他の財産と合算されて課税価格になり、そこから基礎控除「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」を差し引いた残りが課税対象になります(国税庁No.4152)。基礎控除の詳細は相続税はいくらから?基礎控除の計算方法をご覧ください。
なお奥行価格補正率は、路線価図の地区区分と奥行距離に応じて国税庁の調整率表で定められています。ここでは説明のために1.00と置きました。実際の申告では、角地なら側方路線影響加算、裏面が道路に接していれば二方路線影響加算といった調整も入ります(国税庁No.4604)。正確な評価額の算定は税理士にご依頼ください。
訳あり物件ほど、減額の調整が効いてきます
自宅として使っていた土地をそのまま評価するのが基本形ですが、貸している・形が悪い・広すぎるといった事情があると、評価額は下がります。私たちが扱う訳あり物件では、むしろこちらのほうが多いくらいです。
アパートの敷地は「貸家建付地」になります
相続アパートで最も効くのがこれです。国税庁No.4614は、貸家建付地の評価を次のように定めています。
貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 − 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合
先ほどの土地(自用地4,000万円)がアパートの敷地で、借地権割合60%(路線価図の記号D)、借家権割合30%、賃貸割合100%だとすると、
4,000万円 − 4,000万円 × 0.6 × 0.3 × 1.0 = 3,280万円
720万円下がりました。借地権割合は路線価の右隣に付いたA〜Gの記号でわかります(A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%)。
建物のほうも下がります。国税庁は、貸家の評価について「家屋の固定資産税評価額が1,000万円、借家権割合が30%であり、賃貸割合が100%である場合、1,000万円−1,000万円×30%×100%で財産評価額は700万円となります」と例を示しています(No.4602 質疑応答、評価通達93)。
ただし注意点があります。賃貸割合は、課税時期に実際に貸している部分で判定します。国税庁は、継続的に賃貸されてきた各独立部分が、退去後すみやかに募集され、空室期間が課税時期の前後1か月程度など一時的なものであれば賃貸されていたものとして扱って差し支えないとしていますが、長期間の空室はこの取扱いの対象外です。空室だらけのアパートは、税務上の減額も小さくなるということです。相続アパート全体の判断基準は相続アパートを手放したい方へにまとめています。
借地に貸している土地は「貸宅地」です
他人に貸して、その上に他人の建物が建っている土地(底地)は貸宅地として評価します。国税庁No.4613によれば、借地権の目的となっている宅地の価額は次のとおりです。
自用地としての価額 − 自用地としての価額 × 借地権割合
借地権割合60%の地域なら、評価額は自用地の40%まで下がります。ただし評価額が下がることと、売れることはまったく別です。底地は買い手が限られる典型的な訳あり不動産で、私たちのところにも「税金の計算では安いのに、どこも買ってくれない」というご相談が届きます。
三大都市圏で500平方メートル以上なら「地積規模の大きな宅地」
広い土地には、規模格差補正率という別の減額があります。国税庁No.4609は、対象を三大都市圏では500平方メートル以上、それ以外の地域では1,000平方メートル以上の宅地としています。
大阪市は全域が三大都市圏(近畿圏)に含まれます(国税庁「地積規模の大きな宅地の評価」適用要件チェックシート)。堺市・豊中市・吹田市・守口市・寝屋川市・松原市・門真市・摂津市なども全域が該当します。
ただし、次のいずれかに当たる宅地は対象から外れます。
- 市街化調整区域(一定の開発行為ができる区域を除く)に所在する宅地
- 用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
- 指定容積率が400%(東京都の特別区は300%)以上の地域に所在する宅地
- 財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地
さらに路線価地域では、普通商業・併用住宅地区または普通住宅地区に所在するものに限られます。大阪市中心部の商業地は指定容積率で外れることが多く、実際に効いてくるのは周辺区の住宅地です。
自宅の敷地なら「小規模宅地等の特例」
最も減額幅が大きいのがこの特例です。国税庁No.4124が定める区分と割合は次のとおりです。
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(被相続人等の自宅の敷地) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(アパート・駐車場等の敷地) | 200㎡ | 50% |
先ほどの土地4,000万円(160平方メートル)が特定居住用宅地等に当たれば、80%減額されて800万円になります。家屋480万円と合わせて1,280万円。基礎控除の範囲に収まる可能性が出てきます。
ただし、要件は細かく定められています。配偶者以外の親族が取得する場合は同居や保有継続などの条件があり、「自宅だから当然使える」ものではありません。判定は必ず税理士にご確認ください。
特例で税額がゼロでも、申告は必要です
ここは間違えると加算税につながります。国税庁No.4205は、申告が必要かどうかを判定する「財産の価額の合計額」について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)等を適用しない場合における課税価格の合計額をいうと明記しています。
つまり特例を適用する前の金額で基礎控除を超えていれば、特例を使って税額がゼロになったとしても申告書の提出が必要です。「税金がかからないから何もしなくていい」と考えて期限を過ぎると、特例そのものが使えなくなる事態もあり得ます。
なお相続税の申告書の提出先は被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地ではありません。大阪市内にお住まいだった方であれば、大阪国税局管内の所轄税務署に提出することになります。管轄は国税庁ホームページの税務署所在地案内でご確認ください。10か月の期限から逆算した動き方は相続発生から10ヶ月でやること完全タイムラインをご覧ください。
評価額が低い=その値段で売れる、ではありません
ここからは、税務ではなく私たちの現場の話です。
相続税評価額は課税のためのものさしであって、市場で成立する売買価格ではありません。国土交通省の「主な公的土地評価一覧」でも、相続税評価(相続税路線価)は平成4年以降は地価公示の水準の8割程度、固定資産税評価は平成6年以降は7割程度とされています。
ただし、この「8割」は標準的な土地の話です。私たちが実際に扱っている物件では、次のようなことが起きます。
| 物件の状態 | 相続税評価額と実際の売却価格の関係 |
|---|---|
| 整形地・接道良好の宅地 | 評価額を上回る価格で売れることが多い |
| 再建築不可・接道2m未満 | 評価額を下回ることがある(買主が住宅ローンを組めない) |
| 借家人が住んだままの貸家 | 立退き交渉や明渡しのコストが価格に反映される |
| 共有持分のみ | 単独所有の持分相当額を大きく下回ることが多い |
| 底地(貸宅地) | 借地人以外に買い手が付きにくい |
| 残置物・庭木がそのまま | 撤去費用の分だけ手取りが下がる |
相続税の減額と、市場での売りにくさは、同じ原因から生まれています。形が悪い、道路付けが悪い、他人の権利が乗っている——だから評価も下がるし、買い手も見つかりにくい。減額規定を「得をした」と受け取ると、売却段階で見込みが狂います。
そしてもうひとつ、順番の問題があります。相続税の納付期限は10か月です。納税資金を売却代金でまかなう予定なら、それまでに決済まで終えている必要があります。仲介での売却は買主探しに3〜12か月かかることもあり、訳あり物件ではさらに長引きます。期限が迫っている場合の選択肢は相続税の10ヶ月期限が迫っている|不動産を急いで現金化する方法で整理しました。
査定額そのものの見方については不動産の査定額はなぜ会社によって違う?も参考になります。大阪市24区の実勢の目安は大阪市24区|再建築不可買取坪単価・エリアデータに掲載しています。
よくあるご質問
Q. 相続税評価額は自分でも調べられますか。
おおよその金額なら調べられます。土地は国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で亡くなった年分の路線価を確認し、家屋は固定資産税の課税明細書の「価格」を見ます。ただし補正率の適用や減額規定の判定には専門的な判断が必要ですので、申告する金額は税理士にご確認ください。路線価から自分で計算する手順は共有持分はいくらで売れる?大阪市の路線価から自分で計算する4ステップでも解説しています。
Q. 分譲マンションの評価方法は戸建てと違いますか。
マンションは敷地利用権(土地部分)と区分所有権(家屋部分)の合計で評価します。さらに2024年(令和6年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した「居住用の区分所有財産」については、それぞれの価額に区分所有補正率を乗じて計算する場合があります(国税庁No.4667)。市場価格と評価額の乖離を是正するための改正です。
Q. 借地権そのものにも相続税はかかりますか。
かかります。借地権は財産として評価され、自用地としての価額に借地権割合を乗じた金額になります(国税庁No.4611)。建物を建てるために他人の土地を借りている場合、その権利も相続財産です。
Q. 空き家として放置していた実家でも評価額は同じですか。
土地・家屋の評価方法自体は変わりません。ただし空き家を放置すると、固定資産税の住宅用地特例が外れて税負担が増える別のリスクがあります(空き家固定資産税6倍化の回避策)。相続税と固定資産税は別の税金ですが、放置のコストは確実に積み上がります。
Q. 御社は相続税の相談にも乗ってもらえますか。
私たちは宅地建物取引業者ですので、税務の代理や個別の税額計算は行えません。不動産の売却の可否・段取り・現況での買取金額についてはお答えできますし、必要に応じて税理士をご紹介することもできます。
まとめ
- 相続税の不動産評価額は、土地=路線価方式または倍率方式、家屋=固定資産税評価額×1.0で決まります(国税庁No.4602)
- 取得費(買った値段)は相続税の計算に使いません。「時価−取得費」は売ったときの譲渡所得税の計算式です
- 使うのは亡くなった年分の路線価図。地積は登記簿ではなく実際の面積です
- 貸家建付地・貸宅地・地積規模の大きな宅地・小規模宅地等の特例で評価額は下がります。大阪市は全域が三大都市圏に含まれます
- 特例で税額がゼロでも、特例適用前の金額が基礎控除を超えていれば申告が必要です(国税庁No.4205)
- 相続税評価は地価公示の8割程度が目安ですが、訳あり物件では実際の売却価格が評価額を下回ることもあります
無料でご相談・査定を承ります
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- 不動産を売った時の税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と節税対策
出典:国税庁タックスアンサー「No.4602 土地家屋の評価」「No.4602 土地家屋の評価(質疑応答)」「No.4604 路線価方式による宅地の評価」「No.4609 地積規模の大きな宅地の評価」「No.4611 借地権の評価」「No.4613 貸宅地の評価」「No.4614 貸家建付地の評価」「No.4667 居住用の区分所有財産の評価」「No.4124 小規模宅地等の特例」「No.4152 相続税の計算」「No.4205 相続税の申告と納税」「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」/国税庁「令和8年分の路線価等について」「路線価図の説明」「「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート」/国土交通省「主な公的土地評価一覧」/相続税法22条、財産評価基本通達8・13・14・25・26・89・93、租税特別措置法69条の4。制度の内容は2026年8月時点のものです。計算例は前提を単純化した仮のものであり、実際の評価額・税額は個別事情により異なります。個別の判断は税理士にご確認ください。
画像クレジット: 冒頭「大阪府高槻市南平台5丁目の住宅地」by 663highland(CC BY 2.5)/本文「大阪国税局 北税務署」by Edomother(CC0)。いずれもWikimedia Commonsより。図版は当社作成。